第5章 暗殺者の上手な別れ方【前編】
現在、朝の7時。
朝日が煌々と輝く朝の、7時。
単独で夜中仕事してた雨音から、「助けて欲しい」って叩き起こされたのが朝の5時前。
血だらけのシャツを隠さずに朝の5時前、雨音は女の子、と呼んでいいやら女性と呼んでいいやらわからない年齢不詳の、今は寝室で休んでいる彼女を抱きかかえて教授のマンションを、訪れた。
仕事中返り血を浴びたまま着替えもしてないのかと怒鳴る教授を制して、よく見れば彼女も血だらけで。
雨音のシャツを汚した血液は、彼女のものだった。
だけど。
彼女の身体には傷ひとつなくて。
さらに増える疑問。
誰の血?
血だらけのワンピースからして、相手もかなりの重症なはず。
なのにまわりには誰もいなかった、って雨音は言った。
そしてもうひとつ。
彼女には産まれてから今日までの記憶が、いっさいなかった。
「…やっぱ、警察?」
「放り出すの?雨音人でなし」
「はぁ?だってそれしかねーじゃん。どーすんのこの状況」
「だって警察なんて、表から入れないのにまたあの人警察の前に捨ててくんの?」
「捨て…、人聞き悪りぃこと言ってんなよ」
「だってそーゆーことじゃん!」
「なら時雨はどーすんの、血だらけで道端で震えて丸くなってるあの人、見て見ぬフリすんの?」
「そんなこと…っ、言ってない!!」
「同じだろ」
「違うもん」
教授!!
って、ずっと黙ったままの教授へと視線を向ければ。
「…………警察は、やめた方がいいかもしれません」
いつになく真剣な表情で、教授が口を開いた。
「彼女、太腿の内側にほくろがみっつありました。しかも時雨と同じ場所、同じ形の」
「…………」
「…………」
は?
「…って、あんた、太腿の内側って、いつ見たんだよいったい」
「雨音くんが朝の5時に叩き起こした玄関先で。キミ、彼女抱きかかえてたでしょう?ワンピースなんだから、もうちょい配慮した方がいい…」
プツン。
真剣な目で何言うかと思えば。
「信じらんない!!教授のエロバカ!!最低!」