第4章 暗殺者は三度(みたび)哭く
「コーヒー、持って来たの。入ってもいい?」
コーヒー、ね。
「教授?」
「…………ええ、ちょうど休憩しようと思っていたところです」
にこりと笑って、ドアを開けて時雨を招き入れた。
「お仕事、大変?」
「そうでもないですよ」
これは本心。
実際、今の今までカーテンを閉め切ったこの薄暗い部屋でダラダラダラダラと時間を潰していただけなわけだし。
仕事、なんて真っ赤な嘘なんだから。
「休憩?」
「…………そろそろ疲れてきたところなので」
カタン、とデスクに置かれたコーヒーへと手を伸ばし、一口含む。
ゴクン、と喉を上下に揺らせば。
時雨が首へと両手をまわして膝の上へと、乗っかった。
「時雨?」
「休憩でしょ?黙って教授」
余裕のない表情で、唇をくっつけて。
少し唇をこちらから開くと、戸惑いながらも時雨の舌が口の中へと侵入してくる。
舌を入れただけで固まる時雨の舌を、少し誘導して絡めてやれば。
俺がするように、舌先を擦り合わせて吸い上げてくる。
拙いながらも一生懸命な時雨の頭を引き寄せて、このまま深く奪いたくなる欲を抑えて、時雨のしたいようにさせていると。
離れた時雨の泣きそうな顔が目の前だ。
額をくっつけて。
すがるように、おっきな瞳がこちらを見下ろした。
「きょ、じゅ…………」
時雨が求めるものなら、わかってる。
どうしたいのかも。
どうして欲しいのかも。
だけど敢えて、無反応を貫き通した。
表情を変えずに。
見下ろす時雨と、視線を合わせる。