第4章 暗殺者は三度(みたび)哭く
…………こいつ、まじで言ってんの?
よりによって俺にそんな相談、すんの?
「もう1週間、キスすらしてくれないんだよ?おかしいと思わない?あの絶倫オバケが、万年発情期が。なんにもして来ないの」
「…………」
時雨の天然は今に始まったことじゃないし、鈍感なのも承知してる。
俺の淡い恋心なんて1ミリだって気づいちゃいないことも。
「そんなにしたいなら自分から誘えば。あの人飛び上がって喜ぶと思うけど」
「昨日それもやった。でも全然。風邪引きますよ、とか言って上着掛けて寝ちゃったの」
やったのかよ。
いらねー、その情報。
っつか、聞きたくなかったその情報。
「…どー思う?」
「…………」
っつわれても。
テーブルに上体乗っけて、体くっつけてくるから。
しかもキャミ、とか。
目のやり場に困る、これ。
こんなとこあいつに見られたら今度こそ絶対殺される。
ゾクリ。
背筋に冷たい冷気が、刺さった瞬間。
「…………何してんですか、ふたりで」
やっぱり聞こえたのは、寒気がするほど恐怖の低い声。
怖くて振り返ることすら出来ない。
「教授。今日早いね。どーしたの?」
「ただいま時雨」
パタパタパタと嬉しそうに駆け寄る時雨の頭を、愛しそうに目を細めて撫でる教授を見る限り、どこもおかしい感じはない。
むしろ。
「雨音くん」
にこりと笑いながら殺気染みた目で見てくるところなんか、前よりヒートアップしてる気がする。
「…………お邪魔、してます」
「ええ。いらっしゃい」
「雨音がね、ケーキ買って来てくれたの。教授のもあるよ。食べる?」
「いただきます」
「コーヒー淹れて来るね」
「ちょ、時雨…っ」
頼むから今、ふたりにしないで欲しかった…………。
「…………」
ああ、沈黙が怖い。
「雨音くん」
「…………はい」
「時雨の、見ましたよね、先程」
「…………」
不可抗力って言葉しらねーのかよ、教授のくせに。
とか言い掛けた言葉を飲み込んで。
「見てません」
「そうですか」
「…………っ、ぃ!?」
脇腹に走った激痛。
とりあえずこれだけで済んだのは、たぶん奇跡かもしれない。
この状況。