第2章 暗殺者の上手な愛でかた壊しかた
優しく艶のある声で、布団にくるまる時雨に囁けば。
顔を真っ赤にしながらもおずおずと布団から出てくる時雨。
それがすごく可愛くて。
従順な時雨が、愛しくて。
自然と笑みが零れた。
「………今絶対、こいつチョロいな、とか思ったでしょ」
「思ってませんよ」
「嘘だ」
「ええ、ちょっと思いました」
「!!」
明らかに凹みながら。
こちらを睨みあげる時雨。
お構い無しに。
腕の中へと閉じ込めた。
途端。
「い……っ」
痛みに跳ねる、体と歪む表情。
「すみません、時雨」
「………平気」
「時雨」
「このくらい、痛いうちに入んない」
「ん」、と。
両手を広げて俺を待つ時雨が愛しすぎて。
腕の中へと閉じ込めた。
「………教授が暴走したのって、あの写真が原因?」
「……ですね」
「今は、冷静?」
「………ある程度は」
「どの程度」
「理性ないままに時雨を抱き潰した記憶が全然ないのを悔やまれるくらいには」
「…………」
「時雨」
「何ですか」
「…………悲しい時は、泣くものです」
「教授が暴走したから?」
「父親が、死んだから」
「………っ」
息を飲む時雨の気配がして。
ぎゅ、と力を入れて時雨を抱き止めた。
「すみません、当事者は私ですが」
「父親なんかじゃ、ない」
「時雨や雨音くんに"心"があるのは、なぜだと思います?」
「え」
「キミたちがいた環境は、確かに劣悪だったと思います。酷いものだったと思います。それは許されるものじゃないし、許さなくていい。人は、特に幼い子供ならなおさら、誰かに守られる存在なんだから。ひとりで生きていくことを、大人は強要しちゃいけない」
「………」
俺にも。
昔そう、教えてくれた人がいた。
『生きていいんだ』って。
誰かとともに、幸せになっていいのだと。
「でも時雨、それだけじゃなかったでしょう?」
「………ど、いう……」
「時雨に心があるのは、何故です?」
「え」
「人はね時雨、ぬくもりを知って、心が生まれるんです」
「ぬくもり………」