第3章 契り
「……んん」
意識がゆっくりと浮上していく。
凝り固まった身体を伸ばせば、欠伸と涙が漏れた。
部屋は暗闇に包まれていて、完全に日が暮れてしまっている。
寝過ぎた。
これではまた昼夜逆転してしまう。
「……動けない」
隣には、私を抱き枕にしてスヤスヤと気持ち良さそうに眠る五条の姿が。
寝ているとは思えない程にガッチリと抱き込まれていて、抜け出せそうにない。
なんなのこの人、細身なのにかなり力が強い。
あの胡散臭さを増長させている目隠しは外され、立てていた白髪がスッと下ろされている。
目鼻立ちはハッキリしていて、寝ていても顔立ちが良いのが分かる。
長く伸びたまつ毛も、スッと高く通った鼻筋も。
腹立たしい程に似合っている。
絶対本人には言ってあげないけど。
「そんなに見つめられたら照れちゃうよ」
「な!起きてたの?」
「あれだけ熱視線送られちゃったら起きない訳にはねぇ」
パチッといきなり開いた目。
その瞳は透き通るような水色をしていて、吸い込まれてしまいそうだ。
寝起き特有のくぐもった低い声が、ほんの少しだけ私の鼓動を早くした。
「起きたなら離してよ」
「やだ」
私を抱きしめ直し、胸元に顔を埋める。
これで同い歳。
子供の間違いじゃないのか。
スリスリと胸の感触を確かめるように頬擦りを続ける。
マセガキか。
あの身長とルックスなら選り取りみどりで、相手に困らないだろうに。
「真白、少し痩せたね。小さくなった」
「ちょっと!どこを触って何を言ってんの、変態!」
「ん?おっぱい」
「おっ……!?あんたそれでも教師!?」
「だって今生徒居ないもーん、プライベート時間じゃん」
「そうは言っても寮でしょ?敷地内。風紀が乱れる」
「えー、真白ってばお堅い〜。
この前は外であんなコトしたのにね」
ニヤニヤと私を見下ろす。
なんでこんなに扱いづらいのだろうか。
絵に描いたような軽薄。
それでいても時折射抜くように私の奥を見据えている時がある。
「お腹空いたでしょ、ご飯どこ行く?」
「コンビニ行くから良い」
「一緒に行こうよ」
「コンビニぐらい1人で行かせてよ、子供じゃないんだから」