第3章 契り
「……すみません、五条さん」
「なるほどね、理解した。そのまま高専へ急いで、硝子を待機させておく」
真白が呪霊の呪いを受けて倒れた。
有り得ない。
他対一なら他の術者を寄せ付けないぐらい強い筈。
いくら相性が悪い相手とはいえ……ね。
「家入さん!」
「居るよ。そこに寝かせて」
廊下を凄い音を立てて走って来た七海。
その腕の中でグッタリとしている真白がいる。
七海に抱かれてんじゃねぇよ、僕のでしょ。
胸元の開いたシャツ、それもブラウスだけ。なんでジャケット着てないの。
止血の為とはいえ七海のネクタイをつけている姿にイライラが溜まっていく。
「凄い呪詛だね〜、真白がこんなにやられるなんて。
やっぱり僕が行くべき案件だったかな」
「……はい。私が力不足で脚を引っ張りました」
「いや、七海とは相性が悪い。こればっかりは仕方ない。
僕は真白に言ったんだよ。
特級術師は相性が悪いからやられて仕方ないでは済まされない」
お前は強いんだろ?あんな雑魚に負けてんなよ。
僕に大事な話があるんならさっさと起きて、話してよ。
「何かを得る代わりに、何かを失う、か。
こればっかりは起きて真白の様子を見るしかないね。
身体は五体満足である、あとは目に見えない部分だよね〜。
視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚」
「はい……解除の方法は私も探しますが、辻咲さんが目が覚める方が早いかもしれません」
昏睡している真白を見ると、あの頃を思い出す。
僕が任務で誤って真白に術式を当ててしまった時のこと。
あの時も出血が多くて、真白は3日間眠り続けた。
背中に残った大きな火傷の痕はその時に僕が付けた傷。
身体の傷だけじゃなくて僕は反転術式まで真白から奪った。
「……真白」
反転術式は自身に使える術者は少なく、特に他者を治せる者はかなり希少だ。
真白もその1人だった。
でもあの事故以来真白は反転術式を使えない。
他人はおろか、自分すらも治せない。
真白の実力を下げてしまったのは、紛れもない僕自身だ。
「これ、部屋に持って帰っても良いよね?」
「真白のことをこれって呼ぶな。無茶しないなら良いよ」
「しないしない〜」