第2章 過ち
朝食を済ませ、問題の海岸へ行く。
人は誰1人としていない。
噂が広まって人が寄り付かなくなったのだろう。
海は少し濃く、不気味な雰囲気が漂っている。
「凄い残穢ですね」
「そうね、時間経っているのに濃い。
海の中に続いているところを見ると噂の信憑性は上がるわね」
「仮想怨霊なんて、面倒くさい相手ですね」
人魚。
上半身が人間、下半身は魚の姿をしている。
美しい歌声で惑わし、船乗りを遭難させる。
その肉を食べると不老不死の力を得る。
とか、色々な噂がある。
誰も会ったことがないから真相は分からない。
噂だけが1人歩きをして、その噂を恐れた人達から出来た呪い。
そう過程している。
「被害が多いのは若い男性だそうです。
釣りをしていたところ、何かに惹かれるように海に飛び込んだとか」
「歌が聞こえたってこと?」
「真偽は分かりませんね。
何せ飛び込んだ人は全員行方不明ですから。
目撃者は何も聞いていないようですし」
「死体も上がってないからこれ以上の手がかりは期待出来なさそうだね。
んもう、現場の残穢だけじゃ何も分からないよ……」
呪力の残る足元の砂を見つめ、深い溜め息を吐いた。
完全にお手上げだ。
次に現れるのを大人しく待つしかない。
「とりあえず一旦情報を整理しておきましょうか」
「そうね。私も悟から大まかにしか聞いてないから、お願い」
「はい。まず事件が起きたのは今月の初め。
海水浴に来ていたカップルの内、男性の方が何かに惹かれるように海へ入って行き現在も行方不明。
目撃者の女性は呪いの影響で声が出なくなっています。
そして胸元に涙型の刻印が現れています
これが1番初めです」
恋人が目の前で海に入って行く姿は、相当辛いだろうな。
呼びかけても、腕を引いても、変わらなかったらしい。
「2例目。
子供と海へ遊びに来ていた父親が行方不明になりました。
行方不明になる直前、海から変な音が聞こえ、それを聞いた父親の様子が変化したそうです。
誘われるように海に入って行き、少女は海面から顔を出して笑う女の姿を見たと」
「女……!海面からということは海にまつわる呪いで間違いなさそうね」
溺れてしまった女性という線もある。
殺人?自殺?
いずれにせよ男性ばかりが被害に遭うということは、男に恨みを抱いている可能性が高いかな。