第10章 五条悟という男
「伊地知。真白を連れて外で待ってて」
「えっ?ですが……!」
「大丈夫。もう自供してるし手荒なマネはしない。
真白を頼んだよ」
「分かりました」
歩けますか?と遠慮がちに伊地知くんが腰を支えてくれる。
固まって動かない脚に鞭を打ち、地下室の外に出た。
無理矢理に動いたからか、先程の衝撃が大きかったからか、ドアが閉まった瞬間脚の力が抜け落ちてその場に座り込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「ごめん、ちょっと力が抜けちゃって……」
「待っていてください、何か飲み物を買って来ます」
「や、待って、1人にしないで」
飲み物を買いに行こうとしてくれる伊地知くんの、スーツの袖を掴んだ。
はっ、と息を飲む音が上から聞こえる。
その後すぐに小さな声でごめんなさいと聞こえて来た。
「ごめん、伊地知くん」
「いえ私の方こそ辻咲さんの心情を察することが出来ず申し訳ありませんでした」
壁に背中を預けて座り込む私の隣に、同じように体育座りで寄り添ってくれる。
肩をくっつけるとスーツ越しに温もりを感じた。
また上で伊地知くんが息を飲む音が聞こえたけど、ちょっと重かったのかもしれない。
「ごめんね、ちょっと重いかもしれないけど少しだけこのままで居させて」
「重いなんてそんな!とんでもない!
むしろ軽過ぎるぐら……あっ、これセクハラになっちゃいますか!?
私は五条さんに見られないか心配なだけで……」
「悟に?なんで?」
「え!?いや、あの、なんと言いますか五条さんてかなり嫉妬深いじゃないですか……」
「あー……」
「私と距離が近いところなんて見られたら辻咲さんが無事じゃないかもと思いまして……」
焦ったようにオドオドと早口で喋る伊地知くん。
その伊地知くんの態度に普段の悟の行いが見えて来る。
「ふふ、悟のことなんだと思ってるの。
確かに嫉妬深い方だしちょっと面倒な時もあるけど、でも本当に私のことを想ってくれてるのが伝わって来るんだよね。
たまに行き過ぎな時もあるけど、私が嫌な思いをすると思うことは絶対にしない。
なんだかんだで優しい人よ」
「それは十分に伝わって来ます」