第10章 五条悟という男
既に校門前で待機していた桜井さんの車に乗り込むと、猛スピードで動き出した。
……これ、切符切られたりしないのかな。
見つかったらアウトだよね。
そんなことが頭を過ぎるが、人の生き死にの掛かった一大事。
細かいことなんか気にしていられない。
「ごめんね、もう寝るとこだったでしょ」
「まぁ。でも桜井さんが謝ることじゃ……一体何があったんですか?」
「……今日の悟ちゃんの付き添い、ヒメだったんだけどね」
ヒメ。
その名前を聞いて、以前の腕を組んでいた2人が思い浮かぶ。
胸にチクチクと小さな痛みが走る。
今日も一緒に居るの?
大丈夫だよね?何も起きてないよね?
バクバクと心臓が嫌な音を立てて騒ぎ出す。
「自分が悟ちゃんと長く居たいからって、任務をすり替えたの」
「は!?」
「そう。特級案件を別の術師に振っちゃったワケ」
「え!被害は!?悟が引き受ける任務って確か危険度の高いやつなんじゃ……!」
「そう。仕事嫌いの悟ちゃんは危険度の高い任務しか引き受けさせないように伊地知に言ってある。
その任務が別の3級術師に振られたんだから……」
少し先で大きな爆発が起きるのが見えた。
振動が、余波が、車に乗っていても伝わって来る。
なんで最近こんなに大きな事案が頻発するのだろうか。
悟が生まれてから格段に多くなったと言われている呪霊の数が、強さが、ここ数ヶ月で更に強さを増していく。
「ごめん、真白ちゃん、車じゃこれ以上行けない!」
「大丈夫です、走ります。桜井さんは帳と住民の避難を!」
「無理よ!わたしの呪力じゃここまで大きな帳は下ろせないわ!」
「分かりました!帳は私が下ろします。
外へは出られるけれど中へは侵入出来ない縛りを設けます。
桜井さん、お気を付けて」
「分かったわ、ありがとう!」
今見える限りでも被害が起きている場所を全て覆うように、大きな範囲で帳を下ろす。
意外と呪力を持っていかれるけど、これ以上被害を出さない為だ。
中からは出られて、入って来れない。
避難誘導が上手くいけば周りを気にせず戦える。
今は何より住民を避難させなければ。
「爆発の中心地に呪霊が居る筈……!」