第10章 五条悟という男
病院内に入ると、重い空気が漂っていた。
奥に行くに連れてそれはどんどん濃くなっていく。
院内で1番呪いの気配がする場所、オペ室に辿り着いた。
手術中のランプが点灯したままなのが不気味さを増長させている。
廃病院になってそれなりに時間が経過しているにも関わらずランプが消えないところを見ると、相当強い恨みが残っているのだろう。
「……ここね」
恐らく自動で開く筈だったであろうドアを両手でこじ開けると、中は真っ暗闇だった。
そこには夥しい程の呪霊の目が光っている。
軽く3、40体は居るだろう。
その存在を確認するや否や、指先に溜めた呪力を一気に放出させた。
「無差別放電……!」
青くイナズマが走り、オペ室内全てを焦がしていく。
上から下まで余すことなく全ての場所を。
鉄の溶ける匂いが鼻につく。
焦げ臭いこの匂いはどれだけ時が経ってもなれることは無い。
「……出て来なさいよ、そこに隠れてるのは分かってるんだから」
呪霊が何体も重なっている、その後ろに言葉を投げる。
恐らくアイツがここの親玉だろう。
私の放電を、呪霊達を盾にしてかわした。
仲間なのか子分なのかは知らないけど、いくら呪霊でも盾にするなんて根性が気に入らない。
先程はオペ室全体に行き渡るように呪力を分散させたが、今度はアイツ一体に的を絞って放出する。
「ぎゃあ……!」
さっきまでとは比べ物にならない程の呪力だろう。
分散されていたものが一気に襲い来るのだから。
電気が伝わる速度はとてつもなく速い。
呪霊達を盾にしたとはいえ、私の放電では決して無傷では済まなかっただろう。
その動きが鈍ったところに、速い速度で襲われれば逃げることは出来ない。
「任務完了っと」
真っ黒に焼け爛れた呪霊が、ポロポロと形が消えていく。
久しぶりでもしっかり祓えたようだ。
ここの呪霊は数こそ多かったけど、一体一体の力は決して高いものではないだろう。
現に低級呪霊と判断されるぐらいには。
「まぁ数が多いと、いくら低級でも祓っていくのは大変か」
2級術師が怪我を負うのも分からなくはない。
数が数なだけに、誰も責められないだろう。
だからこそ私に回って来た案件なのだろうけど。