第9章 サヨナラ
しばらくして、コンコンと小さなノック音が部屋に響く。
時間帯的にみて恵かな。
夜も遅いのに申し訳ない。
今度何かお礼しなくちゃ。
「や、恵サンキュー。意外と時間掛かったね」
「今何時だと思ってんすか、人使いが荒い。
まぁでも今回は緊急事態なので多めに見ますけど」
「ごめん、恵」
「あんたは寝ててください!」
起き上がろうと身体に力を入れると、恵が声を上げた。
そんなに大きな声出さなくても聞こえるのに。
悟も同じように険しい顔をしている。
「ほんと、自分の身体大事にしてください。
これ頼まれてた薬です」
「サンキュー、恵。助かる」
「あなたが素直にお礼を言うなんて珍しいですね」
「ちょっとー?僕のことなんだと思ってる訳さ。僕だってお礼ぐらい言うよー」
恵が白いビニール袋を悟に手渡すと、ペコリと軽くお辞儀をして部屋を出て行った。
明日も朝早い筈なのに嫌な顔せず寄ってくれるところが優しい。
普通の学生生活を過ごしてたら凄くモテるんだろうなぁ。
「じゃあ薬飲んで寝よう。今日は特別に添い寝してあげるよ〜」
「悟夜任務入ってないの?良いの?」
「七海に押し付けた!だから大丈夫」
「ごめん、七海」
「いーのいーの、てか早く解熱剤飲もっか」
「うん、ありがと。悟先にお風呂入って来なよ」
「もう入ってるってば。そんなに僕と一緒に居たくないの?」
「そういう意味じゃないもん」
硝子の薬はよく効く。
眠気もないのに即効性が強いものが多い。
昼夜問わず動く我々呪術師には重宝する代物だ。
袋に一緒に入ってあった水で薬を飲み込む。
その様子を悟にジッと見つめられていて気まずい。
「そんなに見られてたら飲みにくい」
「んー?エロイなぁって思って」
「バカ」
薬を飲み終えて、ベッドに潜る。
私の部屋のベッドは背の高い悟と寝るには少し狭い。
身体がギュッと密着する。
あったかい……。
私、ちゃんと生きてたなぁ。
あの時絶対死んだと思った。
「……真白、もう寝る?」
「うん。寝ようって言ったの悟でしょ?」
「そうだけど。まぁ明日話すよ」
「え、何それ気になる」
「仕事のことだから、明日で良いの」