第9章 サヨナラ
「ところで、真白を刺したのは誰?顔見た?」
悟の纏う雰囲気がガラリと変わる。
暗く刺々しいオーラ。
物凄く気が立っているのだろう。
私の為にここまで怒ってくれるのは嬉しいけど、少しだけ怖い。
「……ごめんなさい。刺された時のことは全然思い出せないの」
「なんにも?」
「確か顔見知りだった覚えはあるんだけど、全体的にモヤが掛かったみたいで全然ダメ」
「男か女かも?」
「うん。あ、でも女の人かも……一瞬だけ花みたいな強い匂いがしたから。
妊娠してて過敏になってただけかもしれないけど」
「花?」
「うん。花。花の……薔薇っぽいような、なんか独特な感じ」
「……花、ね」
何か思い当たる節があるのか、少し俯く悟。
その表情にはいつもの人を茶化すような笑みはなく、真剣そのものだ。
「調査は僕に任せて、真白はとにかく自分の身体を治すことだけ考えること!良い?」
「調査って、命は助かった訳だしそこまでしなくても……」
「良い訳ないでしょ。
真白に手ェ出したんだから相応の処罰を受けて貰わないと。
てか完全に僕に喧嘩売ってるでしょ、売られた喧嘩は買う主義なの。
真白が関わってるものはね」
ニコニコと笑うその顔は、胡散臭い作った笑顔だ。
私の為に悟が手を汚すのは嫌。
「安心してよ、殺しはしない。
ちゃんと法的な罰を受けて貰うつもりだよ、まぁ上次第なんだけど」
「……上はすぐに死刑にしたがるからね」
「そこのところは心配しなくて良い、ちゃんと上手くやるよ。
真白は優しいんだから」
「そんなことないよ。ただ自分が原因で誰かが死ぬのを見たくないだけ」
私が原因で誰かが傷つくのは嫌だ。
だから基本的には任務も単独任務しか引き受けないし、周りに被害が少ない場所を選ぶ。
私の術式は攻撃範囲も大きい上に、大多数の人間とは相性が悪い。
共闘なんて出来たものじゃない。
巻き込まないように抑えるので必死だ。
「真白、傷の痛みどう?熱はまだ下がってないよね。気分悪くない?」
「ちょっとしんどいかもしれない」
「だよね、寝てな。もうすぐ恵が来る頃だからそしたら薬飲もっか」
「なんかパシらせたみたいで申し訳ない……」
「いーのいーの、恵だから!」