第9章 サヨナラ
泣きじゃくる私の頭をずっと撫でてくれていた七海。
その手つきは凄く優しくて、悟とはまた違った意味で落ち着く。
「ありがと、七海」
「どういたしまして、とでも言っておきましょうか」
「なんかお兄ちゃんみたい」
「年齢的に言うと私が弟では……というかいきなり何を言い出すんですか」
「んー?七海しっかりしてるなぁって」
「……それ、五条さんと比べてます?」
グッと眉間に深い皺を寄せた七海が顔を詰める。
フワリと柑橘系のトワレの匂いがする。七海の匂い。
今日はいつものサングラスはしていなくて、何も隠すことの無い真っ直ぐな視線が私に送られている。
「そんな失礼なことしないよ。
私はいつも七海に助けられてばかりだなぁ……情けない」
「真白さん?」
「この間の人魚の時も、その前の大量呪霊討伐の時も。
数え始めたらキリがないけど、私は学生の頃から何1つ変われてない。弱いまま」
1つ零してしまった本音は、簡単には止まってくれない。
次から次へと零れ落ちる。
こんなことを言ってもまた七海を困らせてしまうだけ。
ただぶちまけて、自分が楽になってしまいたいだけ。
こんなに弱くて醜い自分を悟に見せる訳にはいかない。
「はぁ……あなたは頑張り過ぎなんですよ、昔から。
少しは周りを頼ることをしたらどうです?」
「頼ってるよ?」
「頼ってないから今パンクしてるんじゃないですか。
五条さんの前でもちゃんと泣けてます?」
「え?うーん、泣いてはないかな。
流石に良い歳して人前で泣けないよ」
……七海からの視線が痛い。
じゃあ今のこの涙はなんなのだ、とでも言いたげだ。
「五条さんも心配のあまりカッとなって言ってしまっただけですよ。
何せ、部屋で血を流して倒れている真白さんを見つけたのあの人ですから」
「え、そうなの?」
「聞いてませんか?」
「うん。ほとんど悟と話せてない」
「あの人も相当テンパってましたからね、無理もない」
「……あんなに怒った悟初めて見た。もう嫌われちゃったかもしれない」
思い出して、また不安が募る。
今までも何回か怪我をしたり、怒られたりしたことはあったけれど、今日程凄い剣幕で叱られたことはなかった。
特級なのに何度目だよって呆れられちゃったかもしれない。