第9章 サヨナラ
シンと静まった部屋に扉を叩く音が3回響いた。
「七海です。入っても大丈夫ですか?」
扉越しに声が聞こえる。
馴染みのある声に安心して、良いよと声を掛けた。
今はベッドからあんまり動きたくない。
鎮痛剤で痛みはかなり和らいでいるけど、少し動いたら傷口が開いてしまいそうだから。
「お怪我大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
「これもし食べれそうならどうぞ」
小さめのコンビニの袋に入ったポカリとゼリー。
最低限のカロリーの摂れる物だ。
流石は七海。分かっている。
七海が渡してくれた袋は2つあった。
1つはここに寄る前にコンビニで買って来てくれたであろう先程の物。
もう1つは赤と青のりんご飴。
「っ、七海これ……」
「五条さんに頼まれました。喧嘩ですか?」
「……うん、怒らせちゃったみたい。
今回は私が悪いんだって皆に言われちゃった」
「詳しく聞いても?」
ポツリポツリと七海に話す。
途中で話の腰を折ることはせず、相槌を打ってくれるので話しやすい。
「……それは五条さんが気の毒だ」
「え?」
「あ、いえ、今回は真白さんの言い方が良くなかったですね」
「やっぱり……?」
「仮にも自分の大切な人が、自分の命を軽んじる発言をしたら嫌でしょう?
五条さんが、自分が死ねば良かったって言ったら真白さんはどう思いますか?」
その姿を想像すると、背中に冷たいものが走った。
そんなの嫌だ。
冗談でも言って欲しくない。
悟が居なくなったら私は一体どうしたら良いの。
「……」
「五条さんだってああ見えて普通の人間です。
傷つく時もありますよ」
「そうだよね……」
「まぁ傷心の真白さんを労われなかった五条さんにも非がありますから、そんなに落ち込まなくて良いですよ。
女性にしか分からない痛みもあるでしょうし」
優しく撫でてくれる手に、思わず涙が零れた。
赤ちゃんが居なくなった喪失感と、何も出来なかった虚無感が今になって私に襲い来る。
いや、ずっと襲いかかってはいたんだ。
ただそれに気付かないフリをしていただけで。
「ごめ、ななみ」
「いえ。私のことはお気になさらず、居ないものとして考えて頂いて大丈夫ですよ」