第9章 サヨナラ
「……真白……!」
誰かが私を呼ぶ声がする。
誰の声だろう。凄く大事な人な気がする。
思い出せないなぁ……。
でも今はそんなの関係ないか、お腹の赤ちゃんさえ助かってくれれば私はどうなっても良い。
赤ちゃんさえ助かれば……。
「ッ……」
ズキズキと走る強烈な痛みに沈みかけた意識が浮上した。
冷や汗が出る程の強い痛み。
患部が燃えるように熱い。
「真白!聞こえる!?僕のこと分かる!?」
「さと、る?」
「良かった……本当に良かった……」
ゆっくりと目を開けると、白い照明に目が眩んだ。
チカチカと目の奥が眩しい。
私が寝ているベッドの横には椅子に座り私の手を握る悟の姿があり、その後ろには硝子や生徒達が立っていた。
悟の顔を見て安心する反面、ヒュッと心が冷たくなった。
……赤ちゃんが居る感じがしない。
「……真白」
硝子が言いづらそうに眉を歪めている。
硝子や悟の表情で、全てを察した。
「ごめんね、悟。赤ちゃん居なくなっちゃったんだよね……?」
「っ……」
私の言葉に悟が息を飲む。
普段感情を悟らせない悟には珍しい。
でも、やっぱりそうかぁ。
「ごめんね、悟。悟の赤ちゃん護ってあげられなかった……」
この子はちゃんと護りたかった。
産んで、立派に育ててあげたかった。
どうしていつもこうなるんだろうか。
自分の子供さえ護れない無力な私に腹が立つ。
「真白が謝る必要なんかないよ。
僕の方こそごめん、ちゃんと護ってあげられなかった。
また真白を危険な目に遭わせた」
私のお腹をソッと触れているか分からないぐらい優しく撫で、唇を噛む悟。
そんなに強く噛んだら切れてしまう。
なんで私だけ助かっちゃったんだろう。
そんな言葉が頭の中をグルグルと回る。
「……私が死ねば良かったのに」
ポツリと漏れた本音は、取り消せない。
ただでさえ静かだった室内はこれ以上ないぐらい音が消え、変わりにパンッと乾いた音が響いた。
左の頬がジンと熱くなる。
「だって本当のことじゃない!悟だってそう思うでしょ!?
この子に何も罪はなかったの、私が油断したからいけないの」
悟に叩かれた頬はどんどん熱を持ち始める。
でもそれ以上に胸がズキズキと軋むように痛む。