第16章 祭りに敵(ヴィラン)は潜む
「なに…してんの…」
状況が整理できずに目の前の光景がただ情報として目に映る。
右腕を負傷しているお茶子ちゃんに、血まみれの床、
目の前には車一台分くらいはありそうな大きな黒い何か。
しばらくして、棒立ちの私にその何かは気づいた。
「あ、またかわいい子だあ。おれかわいいこだあいすき。きょうはついてるなあ。って、まあ、お前たちが来るの知っててきたんだけどなあ、お前も雄英の生徒だろ?かわいいなあ、こっちにおいでよ」
低くて震えていて気持ちの悪い声だった。
全身の鳥肌が立つのが分かった。
「…だめ…、……叶ちゃ…ん、…来ちゃ……」
梅雨ちゃんの声が聞こえ、私は我に返った。
こいつ、敵(ヴィラン)だ。
なんでこんなところにいるの?敵は一人だけ?
私一人で対処できる? いや、できない。武器は持ってないもの。
助けを呼びに行く? だめ、その間に何をするか分からない。
じゃあどうするの。
じゃあどうすればいいの!!!!!
『叶ちゃん、一緒にご飯食べに行こうね!』
『私 叶ちゃんが目を見てくれて、嬉しいわ!』
焦ってどうしようか迷っている間に、二人の笑顔が頭によぎった。
守らなきゃ、私が二人を守らなきゃ。
守らなきゃいけないんだ。
「…ねえ」
私は小さく深呼吸をして、今できる最善を尽くそうと決めた。
「……お話しましょうよ。あなたの目的は何?」
そう言うとその敵(ヴィラン)はニタニタと笑い。
「俺、目立ちたいんだあ。こんな個性のせいでみんなにいじめられて、弱いモノ扱いさ……、どうしたらあいつら俺をすごい奴だと思うのか考えたら、
ああ人を殺せば大きなニュースになるかなあって思ってさあ」
それを聞いて背筋が凍る。
つまり、最初から殺人目的で二人に近づいたってことか。
「雄英高校の生徒なんて、殺したらもっともっと大きなニュースになるだろう?だから前から決めてたんだよ、そしたらこの祭りに来るって言うじゃないか。もうわくわくしたよ。」
そう言うとそいつは私に近づいて
「それに、どうせ殺すなら綺麗でかわいい子がいいと思ったんだ。そっちの方が楽しいし、悲劇のヒロインとか言われて話題性があるだろう?ははっははははっははははっ」
そいつはとても楽しそうに笑った。