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桜月夜の、鎖

第3章 恋慕


やだ。
こんなキス。
こんなの、遊びでするキスじゃ、ない。
いつもみたいに強引で。
乱暴で。
無理やり舌を押し込むようなキスじゃ、ない。



「………っ」



あたし、知ってる。
蓮のキス。
蕩けるように甘いキス。
優しいキス。
ちっとも乱暴でも強引でもない、昔と変わらないキス。
あたし。
蓮のキス、好きだった。
蓮とキスするの、好きだった。




「…………なんで、泣いてんのおまえ」




辛そうに揺れる、蓮の瞳。
蓮の瞳に、あたしが写る。




「他のやつんとこなんか、いくなよ」



蓮の指先が、涙を拭って。
すり寄るように。
その手へと頬を近付けた。



「桜………」
「遅いよ、蓮」



この手が、すごく好きだった。



「もう遅い。8年は、長すぎたんだよ」


「…………っ」



「薬飲ませてくれてありがと。だいぶ良くなった」



さっき水と一緒に喉を通りすぎていったの、錠剤だった。
強引で、乱暴で。
だけどやっぱり優しい蓮だから、8年前好きになったの。
だけどそれは今じゃない。
今さら、なんだ。



「蓮はこのままバスにいてあげて。生徒たち、来るかもしれないから」
「おまえは?」
「あたしたちは今、一緒にいるべきじゃないと思う」




このまま蓮と一緒にいたら、あたしが無理。
気付いちゃった。
気付いちゃったよ。
ほんとはもうずっと前から。
知らないフリしてた。
気付かないフリしてた。
蓋をして。
閉じ込めてた。
絶対に開けちゃいけないパンドラの箱は、結局何が残ったんだっけ。
絶望?
希望?
結局残ったのが絶望なら。
やっぱりそれは蓋をして閉じ込めておくべきなんだ。



「…………っけんなよ」

「え」



バスを降りようと、足を伸ばせば。
その手は蓮に乱暴に掴まり。
半ば引きずられるように、バスを降りた。


「そんなに理由が必要なら、俺が作ってやるよ」
「ちょっと、蓮………っ」
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