第3章 恋慕
「急に会いたくなったり」
頭を撫でていた掌は、いつのまにか背中に両手ともまわされて。
気づけばすっぽり、橘さんの、腕の中。
「気が付いたら目で追ってたり、無性にイライラしたり」
「え」
「いつも桜月ちゃんの心を独占してんのは、誰だろうね?」
言葉が難しすぎて。
腕の中から抜け出そうとするけど。
「今この状況で桜月ちゃんの涙なんかみたら、めちゃくちゃにしたくなっちゃうから、顔、あげないで?」
なんて、物騒なことをストレートに言われて。
抜け出そうとしてた体は動きを止めた。
「……………」
言われるまで、涙なんか自分でも気付かなかったのに。
一度確かに止まったはずの涙は。
今、確かにあたしの瞳から溢れてた。
すっぽりと腕の中におさまるあたしの顔は、ぴったりと橘さんの胸にくっついたままだ。
どうしてこの状況で、あたし自身気付かない涙に気付けるの?
なんなら。
恋だと勘違いしたまま付き合っちゃえば、きっとあたしはこの人のことを好きになったかもしれない。
……………たぶん。
好きにならない人なんて、いないでしょう?
あのまま続けることだって。
橘さんには出来たはずなのに。
だけどこの人は。
それは勘違いだよ、とでもいいたげに、わざわざあたしに教えてくれた。
あたしが何を言おうとしているか、何を考えて、どーしようとしていたか。
全てわかった上で。
黙ってれば、あたしはきっとこの人の彼女になっていたのに。
この人がそんな軽薄な人間じゃないのは、今この瞬間思い知ったはずなのに。
そんな自己防衛が働く自分の思考回路が。
ほとほと嫌にもなる。
「俺はいつでも桜月ちゃんの味方だからね。傷付く前に、俺をいくらでも利用してくれて構わないから」
だから。
じゃぁなんで。
そのままかっさらってくれればいいのに。
あたし恋かな、って。
思ったよ?
きっとあたしは、この人を好きだと勘違いしたまま、たぶん幸せに愛されてたよ?
余計なことなんにも考えずに。
傷付くこともなくて。
たぶん、この人に愛されて、その愛にどっぷりとあぐらかいて浸かってたはずだよ?
あたしのそんな浅はかで醜い想いなんて。
しらないでしょう?