第3章 恋慕
「彼のこと、好きなの?」
「………え?」
まっすぐに見つめてくる瞳が、自嘲気味に揺れて。
言っている意味を理解するまでにたっぷり数秒かかった。
………………好き?
「ち、がう。あたしは、橘さんが………っ」
「うん……」
「…………っ」
橘さんといると。
ドキドキする。
キュンキュン、する。
それを恋だとゆーなら、きっとあたしは、この人に恋してんだろう。
恋愛感情のバロメーターが、ドキドキとか、キュンキュン、とか。
そう抽象的なものなら。
だけど。
そんなの言い訳だ。
こんな最低なあたしに、真剣に向き合ってくれてる橘さんにも、失礼だ。
「…………よく、わかんなくて」
ずっとずっと隠していた本音。
そんなはずないって、いい聞かせていた本音。
「…………俺といて、苦痛?」
「まさか」
「楽しい?」
「…………です」
「…………ドキドキ、する?」
小さくコクン、とだけ、頷いた。
ふ、て。
嬉しそうに笑って。
徐に立ち上がると、ポン、ポン、て。
遠慮がちにその手は頭を撫でてくれた。
心地よさに酔いしれるように、加速する心音。
「胸が苦しくなったり、息ができなくなったり」
ドクン
て。
加速していた心音が、嫌な音をたてて、軋んだ気がした。