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桜月夜の、鎖

第3章 恋慕





「………桜月ちゃん!!」




雨の中、バシャバシャと足音を響かせながら彼が、駆け寄ってくる。


「どーしたの、ずぶ濡れじゃん。傘、なかった?」
「…………」


屋根のあるバス停に座り込むあたしの肩を抱いて、心配そうにそう、橘さんがあたしを覗き込んだ。
濡れた前髪から落ちる滴を拭って、両頬を、彼の暖かい掌が包み込む。


「桜月ちゃん?」
「…………っ」



優しく上を向かせる彼の瞳と、視線がぶつかって。
頬へと伸ばされた両手に自分の掌を、重ねた。


「………ごめんな、さい……っ」
「うん」
「誰に頼ってい、か……っ、わかん、なくて……っ」
「………うん」


ボロボロと不安定に涙を流すあたしの頭を引き寄せて、橘さんの掌が、後頭部を優しく撫で上げる。


「連絡もらって、嬉しかったよ?好きなコに頼られて嬉しくないやつなんていないから」
「………めんッッ、なさ…」



なんで。
こんなに優しいの。


ぎゅ、て。
抱き締めてくれる腕も。
触れた肩から香る彼の匂いも。
ぬくもりも。
全部がすごく優しくて。
ぎゅう、って。
彼の背中へと腕をまわした。




「桜月ちゃん」
「…………」
「たぶん俺、桜月ちゃんが思ってるようなやつじゃないよ」


橘さんの声が、雨と一緒に優しく耳に届く。


「弱ってる桜月ちゃんにたぶん今、つけこむ気満々だよ?」
「…………うん」
「下心、あるよ?」
「…………うん」



ぎゅ、て。
彼の胸へと顔を埋めた。



「………こんなずぶ濡れじゃ電車、乗れないから」
「ちゃんと意味、わかって言ってる?」
「……わかってる」



わかってる。
ぬくもりにすがってないと、崩れちゃいそうで。
壊れちゃいそうで。
立ってられない。
橘さんの優しさにつけこんでるのは、あたしの方だ。



「わかってる……」



ぎゅ、て。
さらに強く彼の背中を抱き締めた。
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