第2章 葛藤
「忘れ物」
「…………っ」
1階へと続く、階段。
すれ違い様に蓮が差し出したのは、あたしの眼鏡。
「やり逃げするとか、びっくりだわ」
「やっ………!!りにげ、って……」
「起きたら跡形もなく消えてるし、世間ではそー言わねぇ?」
「………これ、ありがと」
「昨日はやけに積極的だったじゃん。欲求不満?なってやろーか、セフレくらいなら」
「学校でなんてこと言ってんの?バカじゃない?」
つん、て。
視線ごと反らして通りすぎようとすれば。
「………離してよ」
右腕が蓮に捕まった。
「やっぱおまえ、むかつく」
視線が合わないままに、背中から聞こえた声。
「いつもそーやって逃げんだ?」
「別に逃げてない」
「解決するより、楽だもんな」
「だからっ!!……った」
ぐ、と。
腕を掴む蓮の手に力が入って。
痛みが走る。
「逃げたおまえは楽かもしんねーけどな、当事者は全然楽になんねんだよ」
「………」
「覚えとけ」
低く、そう囁かれた言葉に振り返ろうと、した瞬間に。
上の方から元気な声が、降ってきて。
「あ!!桐谷くんじゃん!!神楽せんせー?どーしたの?」
蓮は咄嗟に掴んでいた腕を離した。
「………くんじゃねーよ、先生だろ」
「だって桐谷くん、先生っぽくないもん。保健室行こーと思ってたんだー。一緒行こー?」
「ねーねー、神楽せんせーどーしたの?」
「あ、ううん。ちょっと転びそうになっちゃって、桐谷先生に助けてもらったの」
「神楽せんせーかわいー」
「ねー、桐谷くんその顔どーしたの?ケンカ?」
「あーそうそうケンカ」
「うっわ適当」
「保健室行っていー?」
「たまり場じゃねんだよ」
「なんか頭痛くてぇ」
「家帰れ」
「酷くない、先生でしょー?」
そのまま生徒たちと去っていく蓮の背中に、ホッとした。
『全然楽になんねんだよ』
「…………」
『覚えとけ』
「こっちだって楽になんねーよ、バカ」