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桜月夜の、鎖

第2章 葛藤





「さーちゃんおかえりー!!」




あのあと、始発に飛び乗ってそっとそーっと、ほんとに忍び足で開けた玄関。
家の中はまだ薄暗くて。
家の人間だれもがまだ起きていない事実に安堵、して。
浴室へと直行すれば。
後ろから元気な声を響かせて美桜が飛び付いてきた。


「美桜!?なんで……。まだ、6時前」
「うん、昨日お風呂入らないで寝ちゃったから早めに起きたの。さーちゃん朝帰りー?昨日デートだったよね?」
「ち、違うよ」
「だって最近ご飯食べて帰る、って、多くない?」
「友達!!飲んだら、終電なくなっちゃって……って、なんで美桜まで脱ぐの!?」
「あたしもシャワー浴びたいもん」
「ならあたし後で入るから!!」
「ちょっと待ったさーちゃん」
「何……」
「首のとこどーしたの?」


あわてて服を着るあたしの首もとを美桜がにこにこしながら指すから、あわてて首を両手で隠す。
………けど。
とたんににんまりと得意げに笑って。
美桜は浴室の中へと消えてった。
美桜が消えた脱衣所で鏡をそっと覗き込んでみても。
首にはなんにもない。

「………」


やられた。


人間、咄嗟のことになると素直な反応を示すらしい。
"心当たり"があるだけに。
しかも後ろめたすぎて。
ほんとにもう、嫌になる。






「…………美桜?」
「んー?」
「あたし、ね」
「うん」


浴室の扉挟んで、向こう。
シャワーの音が響く。


「好きな人、出来た………かも」
「……そう」
「うん」
「高校の、時のバイトの先輩、で、ね?」
「え」
「偶然、あって……。ほんとは最近、良く会ってるの。来月の連休も誘われてて、ね?」


ごめん、美桜。
ごめんなさい、橘さん。


あたしほんと最低。


嘘じゃない。
言葉にすることで、言葉を肯定したかった。
"好きな人、出来た"。
嘘じゃないって、自分自身に言い聞かせたかった。



「良かったじゃん、さーちゃん」
「うん」


自分のことばっかりで。
自己防衛することに必死で。
気付けなかった。
気付かなかった。
美桜の声に元気がないことも。
美桜の、違和感にも。


全然気付けなかった。


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