第2章 葛藤
『……っ、や』
『大丈夫、力抜け桜月』
『む、り……っ、無理ッッ、ゆび、や…っ』
『痛くしねーから、桜月』
『………ッッ』
ずっと、優しかった。
涙を拭う指先も。
頭を撫でる掌も。
キスをくれる、唇も。
全部優しかった。
『れ………っ、』
『大丈夫、絶対痛くしねーから。ちゃんと息、吐いて』
声も。
表情も。
『全部挿入った』
つらそうに、顔を歪めながら笑うその仕草も。
あのときは気付けなかった、蓮の余裕の無さも。
全部全部、愛しいと感じていた。
心の底から、蓮を愛してた。
『好き、蓮………っ』
それだけが、全てだった。
蓮だけが、あたしの世界だった。
だけど。
崩れた。
1度入ったヒビは元には戻らない。
あとは砕け散るのを、待つだけだ。
「……………」
あったかい。
心地いい。
このままこのぬくもりに酔いしれていたいけど。
仕事だ。
起きないと。
ふー、と息を吐き出しながら目を開けた。
隣には、昔と変わらないあどけない蓮の寝顔。
暖かったあのぬくもりは、蓮の腕枕。
そうか。
昨日、あのまま………。
「…………」
この人は。
蓮は。
なんでいつも誰かのものなんだろう。
なんでいつも。
あたしのものには、ならないんだろう。
今さらそんなこと考えたって無意味なことくらい、わかってる。
まだ夢の中から覚めない蓮の腕から抜け出して。
静かにドアを閉めた。