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桜月夜の、鎖

第2章 葛藤


両脇を抱えられるようにして男の人が消えて行ったあと。
凍るような空間にふたりきり。
本気であたし、殺されると思った。
だけど。
彼はあたしに気付くと。
していたヘッドホンをはずしてしゃがみこんだ。


『………っ』


表情がなさすぎてほんともう、怖くて。
怖くて怖くて逃げ出したいのに。
腰が抜けて動けなくて。
だから、彼の指先が顔に向かって伸びてきた瞬間。
反射的に目をぎゅ、って、閉じた。
けど。


『ぇ……』


その親指は意外にも、いつの間にか流れていた涙を拭ってくれていたんだ。



『どっか、ぶつけた?』
『え』
『どっか痛ぇ?』


真剣にそう聞く彼に、首をふって否定する。


『そ』


そう言うと、彼はまた立ち上がってヘッドホンを耳へと掛けて。
スタスタと行ってしまった。
それが、あたしが蓮を初めて見た、日だ。










「殴ってねーよ、一発も」
「え」
「だから別に、ケンカじゃねえし」


そう言えば確かに、さっき………。


「怪我」
「あ?」
「怪我してる。病院行こ?」
「バカかおまえ」
「何……」
「クビになりてーの」
「あ……」
「早く帰れ」



確かに今、もし警察沙汰なんてなったら教師じゃ、いられなくなっちゃう。
でも。
だけど。


「蓮のマンション近くだよね?送る」
「は?襲うぞ」
「いいよ」
「はぁ?」
「そんな元気あるなら、お好きにどーぞ」
「バカ?」
「なんとでも言えばいーよ」
「………」


こんな怪我してて。
やっぱりほっとけないよ。
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