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桜月夜の、鎖

第5章 嫉妬




「…………正直、来ないかと思った」


「なんで?」


はぁ、て。
ため息ついて。
蓮の腕があたしを抱きしめた。




「蓮…………っ!?」
「いい。ちゃんと来たから、もういい」



蓮。

蓮。


ああやばい。
どーしよう。
気持ちを自覚したら歯止めが効かない。


愛しくて。


仕方がない。
ごめん美桜。
ごめん。
あたしやっぱり。
この人が大好きだ。




「帰ろう?蓮」
「…………ああ」



松葉杖を、両脇に抱えて。
蓮の歩くスピードに合わせて隣を歩く。


「痛い?」
「痛くない」
「左足は?かなりざっくりと切れたじゃん」
「…………いいよ、桜月が無事なら」


「…………ねぇ、蓮も」
「あ?」
「蓮も無事じゃなきゃ、嫌だよ」



真っ赤に染まった道の上に、倒れてた。
ぐったりと横たわって。
蓮、倒れてた。
心臓が止まるかと思った。
まだ、あの日の夢を見る。
あんな思いもう嫌だ。


「だから蓮、もうあたしのこと庇わなくていいよ」


「桜月」
「うん」
「手ぇ出して」
「ぇ」
「逆」


目の前で右手をかざせば。
左手が、とられて。




「——————ぇ」






左手。



何。
なんで。



「れ、ん?」
「8年前、渡すはずだったやつだから、安もんだけど」


ゆび、わ。



中指?



「サイズまでぴったり、なわけにはいかねぇよな」
「蓮」
「まぁ、とりあえずそれで。そのうち、ちゃんとするから」
「ねぇ蓮…………っ」

待って。
待ってこれ。
頭が追いつかない。


「蓮…………」



これじゃ。
まるで。



「…………いーよ、それで」
「ぇ」
「しとけよ、期待」
「…………っ」



やばい。
道の真ん中。
泣きそう。




「約束な」




いや。
泣くでしょ。
不意打ちすぎ。
だって今日退院したじゃん。
退院するだけじゃん。
何これ。
なんでこんな。


「…………さい、てぇ」


「だよな」



マフラーで顔を隠せば。
そのまま頭が、蓮の腕の中。
道行く人たちが不思議そうにチラチラと見ていく中、蓮の腕の中酔いしれた。
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