• テキストサイズ

桜月夜の、鎖

第5章 嫉妬






あの日。
8年前のあの日。
風邪を引いた蓮のお見舞いに、マンションに行った。
一人暮らしだし。
ひとりじゃきっと、困ってるかなって。
そう、思ったの。
袋いっぱいに作り置きの簡単なご飯、詰めて。


行ったんだよ。


マンションに。








同じ過ちは、繰り返さない。
もう二度と。
逃げないって決めた。





「せんせー!!」



ぁ。
しまった。
授業中。


「大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、ごめんね」
「神楽せんせー桐生先生気になるんでしょー?」
「何、なんで」
「桐生先生怪我してからおかしいもん」
「そんなことないよ」
「あるよある。ねぇまだ桐生先生退院しないの?」


「…………さぁ」



チラッと視界に映った時計。
そろそろ蓮、家着いた頃だ。
今日は蓮の退院日。
仕事終わりにマンションに、寄る約束をした。
大丈夫。
今度こそ。
ちゃんと蓮は、あたしのそばにいる。
あたしの手だけを。


握ってくれてる。








「…………さ、っむ」




1月ももう終わりを告げる頃。
18時ともなればあたりは真っ暗。
北風からの冷たい風が身体の芯まで凍らせる。



「早く行こ」



マフラーへと顔を埋めて。
駅へと続く道のりを急いだ。
駅から2駅。
改札を抜ければ。





「…………蓮」



が、いた。




「ぇ、なんで」




柱へと寄りかかっていた身体を起こして、蓮が駆け寄ったあたしの肩へともたれた。
「蓮…………っ?ぇ、嘘具合悪い?ってか冷たっ!?ぇ、いつからいんの」
もたれた蓮の顔が思いの外冷たくて。
顔を上げた拍子に蓮の頬へと両手をまわす。
「つめ…っ、た!!ねぇなんであったかくして待ってないの。病み上がってもないんだからさ!」
「上がったよ。退院したんだから」
蓮の頬へと伸ばしたあたしの両手に擦り寄って。
蓮が目を伏せた。
/ 121ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp