第4章 代償
だけど。
感じるはずの痛みも、聞こえるはずの乾いた音も。
なんにも、なくて。
ゆっくりと瞳を開けた。
「………っ、蓮」
「…………なんで?」
手首を蓮に捕まったまま、まっすぐに蓮を見て訴える美桜の瞳に、瞳いっぱいに揺れた色。
『哀しみ』、だ。
そして。
「嘘つき」
蓮からはずされた視線は、そのまま色を変えてあたしに向けられた。
『怒り』の、色。
なんにも感じ取れなかった美桜の瞳に宿ったのは。
『哀しみ』『怒り』。
それから。
『あたし』だけに向けられた、敵意。
「さーちゃんの、嘘つき」
「あたし知ってたよ、ずっと前からふたりのこと」
「………………え」
「あたし、そんなにバカじゃないよ?」
涙で溢れたおっきな瞳が、自嘲気味に、揺れて。
「はじめてさーちゃんに蓮くん紹介した時」
ふらふらと、美桜は地面へと座り込んだ。
「あの時から蓮くん、おかしかったよね」
美桜。
気付いて………。
「なんで?さーちゃん、高校の時の先輩と付き合うんじゃなかったの!?」
「美桜、ごめん……」
「ごめんなんていらないっ!!」
座り込む美桜に近付こうとすれば。
そんな大声がそれを拒絶する。
「…………だってれんくん、はじめて会った時からずっと、見えてたのはみおじゃなかったよね」
「……え」
「ずっとれんくんは、あたしを通してさーちゃんを見てたの?ふたりは、ずっと前から知ってたの?」
ポツリポツリと俯きながら、美桜の消えちゃいそうな震えた声。
に。
「………ああ」
はじめて蓮が短く一言、答えた。