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【モブサイコ100】その花の名前は。【島崎亮】【短編集】

第4章 花が散るにはまだ早い


強い超能力者は身を隠すのも上手いらしく、気配をほとんど察知できないばかりか、テレポーターであるが故に、見つけることはほぼ不可能に近かった。
 芹沢さんの紹介で『霊とか相談所』に入り浸り、そこでバイトをしている中学生の男の子、影山茂夫くんに協力してもらったこともあった。彼はあの鈴木さんを倒した強力なエスパーだったけど、それでも島崎さんの正確な位置までは分からなかった。そもそも、何処にいるかも分からない神出鬼没のテレポーターを探すだなんて宝くじを当てることより難しい。

 もう、二度と会えないのかな。そう思うと胸がキリキリして、なんだか無性に泣きたくなった。

「すいません、もう帰りますね。今日はこれにします」

 私は目に付いた名前も知らない花を指差し、それを峯岸さんにラッピングしてもらった。

「ゼラニウムね。あとこれはおまけ」

 そう言って峯岸さんは、数本の白いガーベラを一緒に入れてくれた。峯岸さんは口調は素っ気ないけれど、こうして私をよく気にかけてくれる。
 あ、ヤバい。泣きそう。人の優しさに触れて泣くだなんて、本当に私の心は弱ってしまっているんだな。このままこの場にいたら間違いなく泣いてしまいそうだったから、「ありがとうございます、また来ますね!」とだけ言って、花屋を後にした。峯岸さんは人の感情の機微に鋭い人だから、きっとバレていたと思う。だけどあの人は優しいから、気づかないフリをしてくれたのだろう。涙を流さないようにと天を仰げば、私の心の内など微塵も知りませんと言うようなそれは清々しい快晴が広がっていた。

ここまで周りを巻き込んで、気を遣わせて、それでも未練がましくズルズル引きずって私は何がしたいんだろう。どうしてよりにもよってあの人なんだ。あんな、人の心を弄んで散々振り回しておいて、最後は何も言わず消えてしまうような人を、私は______________

「……もう、潮時なのかな」

 ポツリと呟いた言葉が、私の胸中とは全く真逆で思わず笑ってしまった。今の私は、ボロボロになった心の隙間を誰かの優しさで埋めているに過ぎない。例えるならそう、穴の空いた服にアップリケを縫い付けているようなものだ。
どんなに忙しなく毎日を過ごしたところで、ふとした瞬間に思い出せばすぐに解れ、また誰かに縫い合わせてもらうまで穴は埋まらない。
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