【モブサイコ100】その花の名前は。【島崎亮】【短編集】
第4章 花が散るにはまだ早い
「……会いたいよ、島崎さん」
言葉にするのは実に簡単で、それなのに心はこんなにも苦しい。私の心にぽっかり空いた穴を埋められるのは、世界中どこを探したって島崎さんしかいないのに。自分が開けた穴の落とし前ぐらい自分で付けてよ。勝手にいなくなるなんて、そんな酷いことないよ。私は見知らぬ街で迷子になった子供のように、泣きながら歩き続けた。途中、すれ違う人が私を変な目で見ていたけれど、なりふり構わず嗚咽をもらして泣き続けた。
「君は泣き虫さんですねえ」
最初は、寂しさと現実逃避から来る幻聴だと思った。だって、彼がここにいる筈がないのだから。
「幻聴じゃありませんよ」
私の考えていることなど全てお見通しだというような、見透かした、それでいて揶揄うような声に、私は泣き顔なのもお構い無しに勢いよく後ろを振り返った。
「しま、ざき、さん……」
「本当はもう会わないつもりだったのに、君があまりにも私を呼ぶから飛んで来ちゃいました」
「どうして……?」
「動機の言語化はあまり得意ではないのですが……強いて言うなら、私が君をどうしようもなく愛しているから、というところでしょうか」
島崎さんはぐちゃぐちゃな顔のまま放心している私に近づくと、親指で涙を拭った。