【モブサイコ100】その花の名前は。【島崎亮】【短編集】
第3章 花降らし
「島崎さんに桜のお届けに参りました!」
「艶があって、サラサラしていますね」
ドサリと置いた花弁の一片を取って、島崎さんは興味深そうに触っていた。
「フワフワ柔らかくて、それでいて温かい……春を具現化したみたいです。知識としては入っていたのですが、こうしてじっくりと観察したのは初めてなもので……とても新鮮です」
あ、島崎さんが笑ってる。横顔も綺麗だなぁ、桜より島崎さんを見ていたいなぁ。島崎さんを笑顔にできて、嬉しいなぁ。
桜と戯れている島崎さんに見蕩れていれば、突然視界が真っ白になって、それが島崎さんに花弁を降らされたのだと気づくまでに数秒の時間を要した。
「な、何するんですか!」
「ふふ、よくお似合いですよ」
驚く私とは反対に、島崎さんはいたずらっ子のような顔でクスクスと笑っていた。そんな顔をされてしまっては、怒るに怒れないではないか。惚れた弱みというやつは何ともまぁ厄介なものである。だけど、私だって負けっぱなしという訳では無い。
「これはお返しです!」
「……それはずるくないですか?」
「フフン、これぐらいされて当然です」
念動力で集めた花弁の塊をそのまま島崎さんにお見舞いしてやれば、不本意だと言わんばかりの声が返ってきた。仕掛けてきたのは島崎さんの方なのに。
まぁ、たまにこうやって子供のようなことをするところも好きなのだけれど。
「……綺麗ですね」
「桜がですか?」
「いえ、君のことですよ」
ムスッと拗ねたような顔を緩め、今度は穏やかな表情を浮かべる島崎さんの言葉に、自分の頬が赤く染まっていくのを感じた。
「……そんなの、島崎さんの方が綺麗です」
「嬉しいこと言ってくれますねえ。来年も一緒に見に行きましょうね」
お互いの距離が近づいて、どちらからともなくキスをする。しんしんと降り続ける桜が、私たちを祝福してくれているように見えたのは、少し自惚れ過ぎだろうか。
「約束ですよ」