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【モブサイコ100】その花の名前は。【島崎亮】【短編集】

第3章 花降らし


『花降らし』


「島崎さん、桜がとっても綺麗ですよ!」

 今日は天気がいいからと、仕事以外で家にこもりがちな島崎さんに「お花見に行きましょう!」と提案したのは私である。本当は島崎さんと出かけられるなら何処でもよかったのだけれど、それを言うのは些か勇気を必要とする作業だった。いわば折衷案だ。

「いいですよ、私も君と出かけたい気分でしたので」

私の気持ちを知ってか知らずか、島崎さんは二言返事で快諾してくれた。どうせお花見に行くならと二人でお弁当を作って、桜が綺麗で有名な調味公園まで足を運んだのだった。公園は人でごった返していたけれど、運良く桜の木の下が空いていたから、そこを拠点とすることにした。
『人混みは神経を使うので苦手です』以前島崎さんが言っていた言葉を思い出して、それを承知の上で付いてきてくれたのだと思うと胸が熱くなった。

「温かくて気持ちがいいですねえ。たまにはこういうのも悪くないかもしれません」

 大きなソメイヨシノの下に腰掛け、深く息を吸う島崎さんのそれは秀麗なこと。未だに、私は彼とお付き合いしていることが夢なんじゃないかと思うことがある。白昼夢を見ているかのような感覚に陥って、その度に島崎さんには怪訝そうな顔をされていた。口に出すと照れてしまうし、何より揶揄われるのが目に見えているから、言わないけれど。もし本当に私が長い長い夢の狭間にいるのなら、永遠に覚めて欲しくないものだ。

「桜はどんな形をしているのですか?」

「アーモンドを薄くして、先端が欠けたような形……ですかね。そんな花弁が五枚集まって、一輪の桜の花が出来上がるんです」

私の説明に、島崎さんはきょとんとしていた。百聞は一見にしかず。いや、この場合一触にしかず、かな。

「触った方が早いです。ちょっと待っててください!」

私は島崎さんの返事も待たず、せかせかと舞い散る花弁を念動力を使って集めていく。一刻も早く、島崎さんに桜を"見て"ほしい。この感動を分かち合いたい。
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