第3章 音柱邸
「大変だったんですね。」
雛鶴が眉を下げて労う。
信じられない話ではあったが、光る壁という不可思議な現象を目の当たりにしているため、受け入れるしかない。
「じゃあ、その力で列車でも鬼と戦ったのか?」
まきをが尋ねた。
「いえ、列車の中に突然転移してしまい、以前の世界の神様との繋がりが絶たれたのですぐには何も出来なかったんです。」
は少し俯く。
「こちらの世界の神々と繋がる事が出来たのが、列車が横転してから暫くたってからでした。」
「それから夜明けまでは人々の応急処置にあたって、最後に行き着いた先にいらしたのが…」
「俺だったと言う訳か。」
腕を組んだ煉獄が話に入る。
「ほぼ致命傷だったと聞いたが、そんな怪我も治せるのか。」
宇髄はに問いかける。
「…いえ、通常、癒しの奇跡では欠損した部位や臓腑は元には戻せません。」
少しの緊張感が有る声で答える。
「ん?しかし、俺はいまここで生きている。確かにあのときは死んだと思ったが…
よもや!」
煉獄はの横顔を見開いた目で見つめる。
「…あのとき、私が行使した奇跡は"反魂"の奇跡です。」
「神職の道を極めた者が、生涯に一度使用できると言われていた御業です。」
「つまり、煉獄はその時死んでいたって事か!?」
宇髄は驚きを隠さずに問う。
「そうなります。」
驚きと戸惑いが辺りを包む。
静寂を破ったのは煉獄だった。
「一生に一度という、貴重な力を何故あの時初対面の俺に使ったんだ?」
大きな瞳を真っ直ぐに向けて問いかける。
「あちらの世界では助けたかった人達が多すぎて、たった一人だなんてて選べませんでした。」
「それに、生き返っても、直ぐに無駄になってしまう様な状況だったんです。」
「お前は生きろと言われ、家族の様に過ごした騎士団のみんなから庇われて命を繋いでもらって…。」
「父の様に慕っていた団長が話してくれた界渡りの伝説を思い出し、実行したんです。」
「そして、あの場所で杏寿郎さんが目に入ったんです。」
「今度は助けたい。人々を守った貴方を守りたいと思いました。」
「生きて下さってありがとうございます。」
煉獄に向けられたのは、目尻にほんのり涙が乗っている、華が咲いた様な笑顔だった。