第3章 音柱邸
「ああ、そうだな。」
煉獄は答えた。
まともに返事が返ってくるとは思っていなかった宇髄は、少し驚いて煉獄を見る。
正面を見据える煉獄は真面目な顔をしていた。
「とても気立ての良い女性だ。彼女には幸せになって欲しいと思っている。」
「お前が娶って幸せにしてやれよ。」
宇髄は言うが、煉獄は首を横に降る。
「は結婚はしないと決めている。それが、奇跡を行使する代償なんだそうだ。」
「そうか。残念だな。」
宇髄は心から思った。
この堅物の仕事仲間が初めて色恋事をほのめかした。
家に来てすぐに、煉獄がに向ける表情の柔らかさに気が付いていた。
煉獄が自覚しているとは思っていなかったが、どうやら彼は己の表情を和らげている感情に気が付いていたらしい。
その感情が、彼に新たな生き甲斐を与えてくれればという期待があったが、それはどうやら難しい様だ。
「儘ならないもんだな」
宇髄は空を睨みながらごちた。
「そうだな。」
正面を向いたまま煉獄は答える。
「ただ、許されるならば、を支えて行ければと思っている。」
「彼女は違う世界からやって来た。」
煉獄の言葉に、良く分からないという表情が浮かぶ宇髄。
「その国最高の戦闘集団の中で回復や援護を担当していたそうだ。」
いよいよもって理解が出来ない発言だが、宇髄は口を挟まず静かに聞く。
「ある時、異形の群れによって部隊は壊滅し、はこの世に逃れて来た。」
少しの間が空く。
「最高峰の武力集団が壊滅し、守りの要が無くなる。そのまま異形の大群が国を襲えばどうなるか、聡い彼女が分からない訳がない。」
「国は滅ぶだろうな。」
宇髄は遠くを見つめる。
「は、夜中に泣きながら魘されている事が多いのだ。
部屋の外からでは、何を言っているのかは聞き取ることは出来ないが、苦しんでいることはわかる。」
はぁ、と、深く息を吐く煉獄の表情は憂いを帯びる。
「朝になると何事も無かったかのように振る舞うが痛々しい。」
「何としてでも幸せになって欲しい。」
煉獄は空を仰いだ。
青空は皮肉なほど美しく広がっている。
「そうか。」
宇髄は何も言えなくなった。
幸せになって欲しい。
それは、煉獄に対して自分が思う気持ちと同じだった。