第4章 見えない傷
スー、スー
急に大人しくなったと思えば自分の腕の中から聞こえてきた微かな寝息。
沖矢はそっと腕の力を緩める。
そこには安心しきったように眠っている。
はぁ…
泣き疲れたからであろうが、初対面の男の腕の中で眠るという危機感の無さに沖矢は思わずため息を着いた。
けれどいつもなら初対面の人間に向かって静かに警戒心を張っている彼女を知っている沖矢はこの状況に嬉しさを覚えたのも事実。
をソファーに寝かせると、沖矢は机の上に乗ったパソコンを開いた。
それはが手に持っていたパソコン。
が他に持っていたのはパーティー用の小さな鞄のみ。
パーティーに行った帰りにパソコン片手に夜道をさまようなんて普通に考えても違和感がある。
家の窓からふと見えた彼女の姿。
フラフラになって、流れる涙を必死に拭って
あぁ、また1人で泣いているのかと沖矢は居ても立ってもいられなくて彼女に近づいた。
赤井秀一が死んだとされてからずっと気にかけていたのこと。
彼女には出来るならば事実を伝えようと思っていた。
いや、そうしなければ彼女自身がまた壊れてしまうと思った。
けれど一般人となった沖矢昴が組織の人間に容易に近づくことは出来ない。
ましてやはジンのお気に入り。
私情でFBIを巻き込む訳にはいかない。
そんな中、こうして再開出来た今
はまた1人で強がっていた。
ボロボロなのは、目に見えているのに。
関わりを作るならこの機会を手放す訳にはいかない、そう思って沖矢はを家に招いた。
が家に入って早々シャワーを浴びたいと言って沖矢は一瞬戸惑った。
沖矢はをそう言うつもりで家に上げた訳ではなかったから。
慣れて、いるのか
そう思ってモヤついた感情が胸に溜まる。
そもそも帰れる場所が無い、という時点でおかしい。
には組織のアジトがある。
なのにどうして、そこに戻ろうとしないのか。
いや、戻れないのか。
疑問を抱いたままに貸す衣服を脱衣所のカゴに入れようとした時、見えてしまったボロボロになったドレス。
ロングコートの前をきっちり閉めていたの姿。