第4章 見えない傷
リビングにが入ってきて、その姿に沖矢は一瞬思考が停止した。
上下セットのスウェットを置いておいたはずなのだがは上しか着ていない。
少し屈めば色々と見えてしまいそうなその格好に気持ちが昂りそうになるが、沖矢は平静を装った。
前にも似たような状況になったことがあったと沖矢は思い出した。
その時は今のように理性を保てなかったのだが
しかし今はそんなことを考えている場合ではない。
に聞かなければならないことがある。
単刀直入に問えばは素直に認めた。
動画を見てしまった以上、それが嘘だとは思っていなかったが改めて湧き上がる怒り。
でもそれは、犯されたという事実に対してだけでなく、の強がりな態度にでもあった。
初めてと言い合った時と同じ
自分の本心を探られそうになると途端に不機嫌になる。
必死に隠している弱い部分を隠そうとする。
お前は、本当はすぐ泣くんだ
楽観的なフリをして、一つ一つの言葉に繊細で
自分が耐えればなんとかなると思っている
それをやめろと、言ったはずなのに
ああ、そうか
いなくなってしまったからか
彼女の痛みを受け止めていた、赤井秀一という人間が
ならば、沖矢昴が赤井秀一の代わりになればいい
本当は俺が赤井秀一だと言ってしまいたい
でもそのタイミングは、今ではない
せめてその時まで、自分がの近くにいてやりたい
そんな想いを込めて抱き締めればそのまま眠ってしまった彼女。
どうにか関係を作れただろうか
ただの他人から、そうではない何かに
沖矢は先程とは違う別の動画を再生する。
そこに映し出されたのは社長室でパソコンをハッキングするバーボンの姿。
それを見て、沖矢はなんとなく察した。
があの男たちに抵抗していなかった理由を。
彼女の心の中にずっと居る、1人の男の存在
沖矢はパソコンを閉じた。
煙草を咥えて、マッチで火をつけると口から漏れる白い煙。
─言わないで…!知られたくないの、秘密にしてて…─
バーボン、俺は君が羨ましい
こんなにも愛しい彼女に好かれている君がね