第4章 見えない傷
沖矢に抱きしめたられた時、ふわりと鼻を掠めた懐かしい匂い。
あぁ、そうか
似てるんだ、この人は
唯一カーディナルではなくという1人の人間として接することが出来た人。
たくさんの愛をくれた人。
初めて誰かに自分の涙を見せた人。
自分の全てを、受け止めてくれた人。
その人は、ついこの前、もう二度と会えなくなってしまったけれど
は馴染みのある煙草の匂いを思い出してギュッと沖矢の服を掴んだ。
誰かの前で泣いたのは久しぶりだった。
バーボンの前で泣いてしまったのはカウントしたくないけれど、
今までは彼の前でしか泣かなかったのに、
なのにどうして、沖矢さんの前でこうして今泣いているのか。
見た目より筋肉はしっかり付いていて、肩幅も広い。
腕を引く力は強かったのに、抱きしめる強さは驚くほど優しい。
それすらも、彼と重ねてしまって
なんでもかんでも似ていると思ってしまう自分には少し呆れた。
「さんの気が済むまで、僕はこうしていますから」
沖矢はそう言ったがは自然と涙が止まってきていた。
沖矢に抱きしめられて落ち着いたからか、冷静になって考え直したからか。
ジンとは違う優しさ。
ジンもよくを抱き締める。
はその抱擁に愛情を覚える。
付き合っている訳でもないし、もジンが自分にどういった感情を抱いて今の関係を続けているのかは分からない。
でも、自分を大切にしてくれているということは分かる。
言葉に出すわけではないけれど、自分といる時は普段の組織にいる時とは雰囲気が違うから。
今、自分を抱き締めている彼は自分を包み込んでくれるような優しさがある。
自分でもこんなに安心しきっているのが不思議でたまらない。
初対面の人には警戒して、疑い深いはずなのに、
まるで本当に自分の扱いを前から知っているような
そんなこと、絶対あるはずないのに…
今日1日、色々あって疲れきったは急激な眠気が襲ってくるのを感じ、まもなくして視界から光が消えた。