第4章 見えない傷
「その時だけじゃない。家に入った時もまだ少し震えていましたね。怖かったんじゃないんですか。そのようなことがあった後に、見知らぬ男の家に行くというのは」
「…」
「怖くないわけないんですよ。それを1人で抱えられるような余裕は貴方にはないでしょう」
「…何も知らないのに、知ったような口調で言わないで」
は淡々と自分のことを探ってくる目の前の男に軽く苛立ちを覚えた。
は本心を隠すのは得意なはずだった。
何年もずっと隠してきたのだ。
いくら泣いているところを見られたとはいえ、出会ってまだ1時間も経っていないこの男に、意図も簡単にその努力を台無しにされてはいけないのだ。
「抱くならさっさと抱いて。こんな無駄話をしたい訳じゃない」
「僕の話を聞いていましたか?男に怯えている貴方を抱くほど僕は愚かではありませんよ」
「じゃあどうして私なんかを家に上げたの」
「泣いて震えている貴方を、ほっとけなかったからですよ」
「そんなの、嘘にきまってる」
「嘘じゃないですよ。あの時の貴方は1人にしていい状態じゃなかった」
は沖矢という男が自分にとって苦手なタイプだと思った。
何を考えているのか分からないくせして人のことはよく見ている。
それを隠すこともなく人に言ってくる。
いつの間にかペースを握られていて、自分が考える余裕を与えてくれない。
「何をそんなに強がっているのか知りませんが、貴方は自分が思っているよりも弱い」
「そんなこと、貴方に言われる筋合いはないでしょ」
「ええ、確かにそうですね。しかしそれが今まで通用してきたなら、周りの人は余程貴方に騙されやすかったのでしょうね」
痛いほど言葉が的確で、逆に自分が惨めになる。
「無理に自分を作っているといつか自分が壊れてしまうんですよ」
そんなの、自分が1番よく分かってる。
「時には誰かに自分のありのままの姿をさらけ出すことも必要です」
それが出来てたらこんなに苦労していない。
「貴方には、いますか?そんな人が」
ちゃんと自分を見てくれる人、自分を隠す必要がない人、
そんな、そんな人…
今はもう、
「…いないっ…」
は両目から涙を流した。
そんなを沖矢は優しく抱きしめた。