第4章 見えない傷
「コーヒーと紅茶、どちらがいいですか」
「じゃあ、紅茶で」
はソファーの端っこに座った。
さっきまでの乱れた感情はどこへやら、今はふかふかなソファーにゆったりと身を預けている。
沖矢がお盆を持って現れ、の前のテーブルに紅茶と砂糖を置く。
「ありがとうございます」
はそう言うと何杯もの砂糖を紅茶へ沈めた。
熱々で甘ったるい紅茶が、は昔から好きだった。
沖矢はの隣に腰掛け優雅にコーヒーを飲んでいる。
これから行為をするにしては、あまりにも落ち着いた雰囲気が漂っているなとは思った。
正直するならさっさとやって欲しかった。
今夜は甘い雰囲気などいらない。
いっそのこと自分を壊して欲しいと思った。
「さん」
名前を呼ばれては沖矢の方を振り向く。
明るい場所で見ると随分と顔が整っていることに気づく。
ただ、何を考えているのか分からない。
けれど少なくともには分かった。
目の前の男が、これから自分を抱く気はないのだと言うことを。
「単刀直入に聞きます。
貴方、僕に会う前に誰かに無理矢理犯されましたか」
は微かに目を見開いた。
「どうしてそう思われるんですか」
「着替えを用意した時に、見えてしまったんですよ。前から破かれたであろう無惨な姿のドレスが」
はやはり隠しておくべきだったと後悔するも既に遅い。
あんな状態のドレスを見て言い訳する方が難しい。
「…そうです。すみません、先に話さなくて」
「いえ、話しにくいことでしょうから。僕と会った時に泣いていたのは、そのせいですか」
「…ええ、まぁ…そうですね、」
間違ってはいない。
あの時の涙は、犯された時の恐怖、も入ってたから。
「巻き込んでしまうようでしたら、今からでも帰りましょうか」
「いえ、そんなことは思っていませんよ。むしろ僕はさんの方が心配です」
「もう大丈夫ですよ。沖矢さんに心配してもらうようなことではありません」
「…でもさん、僕に会った時震えてたじゃないですか」
は言葉を詰まらせた。
少しだけ、少し震えてしまっただけ。
上手く隠せてたと思ったのに。