第4章 見えない傷
「お邪魔します」
会って間もない、見知らぬ男に連れられて入った家は予想以上に大きかった。
は目の前の男がそんな軽い人だとは思わなかったのだが、人は見かけによらないことが多いと深く考えずに後を着いてきた。
帰れない女を自分の家に泊めるなど、それが何を意味するのかは分かりきっている。
それでも今日はあの場所には帰りたくなかった。
一瞬たりとも顔を見たくなかった。
自分のことを知っている誰かに、こんな感情を
知られたくなかった。
玄関の扉の鍵が閉められて続く沈黙。
先に口を開いたのは男の方。
「まだ名前を言ってませんでしたね。僕は沖矢昴です」
「…です」
「さん、ですか」
1晩だけの相手。
別に偽名を教えても良かった。
けれど今は、その名前を考えることすら面倒だった。
それともう1つ、
「沖矢さん、シャワー浴びさせてもらってもいいですか?」
未だ膣内に取り残されているあの男達の残骸を、早く洗い流したかった。
この発言を沖矢がどう捕えるかなんてどうでも良かった。
正直今日はもう誰かに抱かれたくなんてなかったけれど、それでは泊まらせてくれる言い訳にならない。
「どうぞ、案内しますね」
沖矢の返事に多少の間があったことをは気づいたが、知らないふりをして歩く。
「着替えはココに置いておきますから」
案内された後でそれだけ言い残して沖矢は来た道を戻って行った。
お風呂もまた規格外の広さだった。
見た感じまだ若いのにこんな大きい家に住めるのか、とはお湯につかりながらぼんやりと考えていた。
お風呂を出ると黒のスウェットが一色畳んで置いてあった。
履いてみるが綺麗にズボンが下がってしまう。
上だけでも十分な大きさだったのではズボンは履かないことにした。
長い廊下を歩き、は物音のする部屋の扉を開けた。
そこはリビングで、アンティークな家具が優雅に並んでいる。
「お風呂、ありがとうございました。あと、着替えも」
キッチンでお湯を沸かしていた沖矢にそう告げる。
机にはの持っていた小さなカバンとパソコンが置かれていた。