第4章 見えない傷
「…ぅ…っ…」
バーボンの車を降りた後、は1人泣いていた。
目的地も分からない、何も考えずに足はただ前に進む。
あのままバーボンと一緒にいたら、感情が溢れてしまいそうだった。
本当のことなんて言えるはずがない。
バーボンが殺されそうだったから、自分をあの男達に売ったのだと
そんなの、バーボンにとっては屈辱でしかないでしょう?
死ぬほど嫌いなやつに助けられるなんて
でも
怖かった
助けが来ないこと、抵抗できないこと
自分を、見失ってしまいそうになること
ああ、今、すごくジンに会いたい
何も言わずに抱きしめて欲しい
ううん、ジンじゃなくてもいい
今の自分を包み込んでくれるような、
感情を隠す必要の無い誰かに
会いたい
「大丈夫ですか」
俯いていたに降ってきたその声。
が咄嗟に顔を上げるとそこにいたのはピンク髪を揺らす眼鏡の見知らぬ若い男。
周りを見渡すと、どこかも分からぬ住宅地。
「大丈夫ですか」
目の前の男はもう一度に尋ねる。
それもそのはず、は涙を流したまま困惑した様子でその男を見ていた。
「あ、はい…大丈夫です。すみません…」
は涙をグイッと拭うと無理矢理笑顔を作る。
「ここじゃ見かけない方ですけど、こんな遅い時間にどうしたんですか」
「ちょっと迷ってしまって、」
「どこに行くつもりだったのですか?」
「それは、…その…」
行く場所なんて、どこにもない。
アジトはあくまでも組織の活動の本拠地。
はそこで生まれそこで育ってきたが、本来は人が住むための場所ではない。
ジンだってベルモットだって、自分の家を持っている。
には、それが無かった。
帰れる場所がない。
はこの瞬間、その事実が表す切なさを感じた。
「帰れる場所、ないんですね」
男はそう呟く。
はそれに小さく頷いた。
なんとなく、男が次に言う言葉が分かったような気がした。
「よかったら、僕の家に来ませんか」