第4章 見えない傷
バーボンは呆れたように軽く笑った。
窓に映ったバーボンの顔は全然笑ってなくて、はまた小さく、ごめんなさい、と言った。
ああ、もっと嫌われちゃったかな
ネオンが光る街並みが、次第にぼやけて二重になっていく。
痛かった。
あの男達の無理矢理な行為で、の下腹部は未だ鈍い痛みが走る。
口は喉奥に突っ込まれた苦しさが消えずに思い出しては吐き気が込み上げてきた。
でも1番痛むのは
の心だった。
鷲掴みにされたように苦しくて、苦しくて、
あの時と似た痛みが、胸に走る。
「止めて」
の小さな呟きがバーボンの耳に聞こえた。
バーボンはの方を見るが、未だ顔は窓の外を向いていて表情は見えなかった。
「こんな所で降ろせと?まだアジトからはだいぶ離れてますよ」
「いいから、止めて」
「もしかして、さっきので僕と一緒にいるのが辛くなったんですか?事実を述べただけなのに」
「…」
「当たりですか。自分が待たせといて、今度は途中で降りるんですか。どこまで自分勝手なんだ」
「…」
「人の気持ちが分からないのか。情けってもんを知らないのか。ああ、だからお前はあんな事が出来たのか。スコッチの事なんか、どうでも…
「降ろして」
はバーボンの方を向いた。
バーボンはの姿に次の言葉が出なかった。
の右目から、静かに涙が零れていたから。
思わずバーボンは車を止めた。
「…ジンかベルモットに今日は帰らないって言っといて」
はそう言い残すとドアを開けて外に出た。
バタン、とドアの閉まる音がしてバーボンは1人残された車内でさっきまでのいた助手席を見つめた。
言い過ぎたか?
いやでもあれは全てカーディナルだって分かりきった事実だろ
なぜあいつが泣くんだ
あいつが悲しむ資格なんて、どこに、
の涙に自分の感情が乱れたことにバーボンは虫酸が走った。
舌打ちを漏らすと先程よりも荒い運転でアジトへと向かった。
俺が後悔する必要なんてない
何度もそう自分に言い聞かせながら