第1章 組織で生まれた子
その数分後、を抱いたベルモットの耳にパンッ、と乾いた銃声が聞こえた。
ごめんね…
その謝罪は今さっき殺された母親に向けてか、それとも目の前の幼児に向けてか。
を抱いたままベルモットは部屋を後にした。
そのまま暗い廊下を通り、目的の部屋に向かう。
時々通りすがりの部下が驚きの表情でベルモットと幼児を見る度に彼女は、私の子じゃないわよ、と言った。
組織の中でも滅多に立ち寄ることの無いフロア、その一番奥の部屋の前でベルモットの足は止まった。
「入るわよ」
広々とした空間のその部屋の印象は色で例えるなら黒、だ。
ベッドも、ソファーも、カーテンも、部屋の至る所に黒色の家具が置かれている。
それもそのはず、この部屋の持ち主はいかにも黒が似合う男なのだから。
「産まれたわ」
「あぁ、今母親が死んだって報告があった」
机に散らばった書類を整えた後で、その人物はベルモットの方へ振り向いた。
長く伸びた銀髪が、不気味に揺れる。
「性別は」
「女の子よ、って言うの」
「チッ、男だったら色々使えたものを」
「ジン」
気に食わない、というように顔を顰めるジンにベルモットは真面目な顔で告げる。
「この子は組織のために産まれた子じゃないわ」
「組織で育てるってことはそういうことだろうが」
「でもそれを、私たちが決めていいものじゃない」
「NOCと分かって殺す所を人体実験にしてやったんだ、それが何だ、組織の女に恋して挙句子供まで作って、最終的には組織を抜けようなんてな」
「それは本人達のした事でしょう。この子に関係ないじゃない」
「関係ない?本当ならそいつも今頃あの世にいるはずだ。あの女が泣いて頼むから子供だけは助けてやったんだ。その代償ぐらい払ってくれてもいいはずだぜ?」
「だとしても…何も分からないこの子を最初から組織で利用なんてあまりにも酷すぎるわ」
「なら、物事分かってたらいいんだな?」
ジンは怪しく笑みを浮かべてベルモットに尋ねた。
ジンがにありとあらゆる能力を付けさせて組織に染まらせようとしているのは目に見えていた。
ベルモットはそれを止めたかった。親達が組織内のルールを破ったと言えこの子には何の罪も無いのだから。