第3章 シルバーブレット
「こんなとこにまで付けたの…」
は身支度を整えながら自分の首元についたキスマークにそっと触れる。
服では隠れない場所に咲いた紅い跡を見て、今日は髪を下ろしていくしかないとゴムを解いた。
「支度できたわ」
がジンにそう伝えると車の鍵を手に取り、そして廊下にかけてあるいつもの黒い帽子を被る。
一般の人間は使わない極秘の通路を通って駐車場へと向かう。
「今日は帰り遅いのか」
「分かんない、遅くなりそうだったら連絡する」
車に乗り込んだ2人は車内で今日の予定について話をする。
プライベートにおいて予定を交換するのはジンはだけ。
こうやって大学に車で送っているなんて、ジンを恐れている組織の人間が知ったらどう思うか。
フッ、と笑いを漏らし談笑する姿を、彼らは見たことがあるのだろうか。
─ジン?─
その日、朝からポアロのバイトが入っていた安室は店の前を掃除している時に見知った車を見かけた。
この辺りであんな古いポルシェを運転するのは奴しかいない。
一瞬見えた銀髪に、安室は眉をひそめる。
安室の位置からして助手席にいた相手は見えなかった。
今日のこの時間、ジンは任務が入っていただろうか、
自分はジンに嫌われているから情報も伝えられないのかもしれない、と安室は落ち葉をかき集めながら思った。
「ここでいいわ、ありがとう」
大学から少し離れた人通りの少ない通りに車は止められ、は車を降りようとする。
そんなの頭を引き寄せ軽くキスをしたジンには小さく、行ってきます、と言った。
学校帰りの学生がちらほらと見え始めた頃、コナンは必死に1人の男を追っていた。
人混みをかき分けて走る男、その男の手に握られた血の着いたナイフ。
そう、コナンが追っているのは通り魔だった。
赤信号の交差点を男は大量のクラクションを鳴らされながら走っていく。
「クソっ」
コナンは近くに見つけた歩道橋を駆け上がる。
男がもうすぐ歩道橋の方に向かってくるのを見て、コナンは階段を下る途中で、手すりから飛び降りようとした。
だがその時、濡れた手すりに足が滑りコナンは前のめりの状態で空中に放り出された。
─やばい、落ちる…!!─