第1章 単純
「ま、まあとにかく、人を愛して
幸せになる権利は櫻井さんにもあるんですから」
櫻井さんに向かって言えば
いい励ましになったのかもしれないけど
私は前を向いて親指を立てて
その場から立ち去った。
この、何とも言えない空気が
私にはまだ早かった。
「て、自分で作ったんだけど」
スタジオから出て缶コーヒーを
座って飲みながら呟いた。
今、近くに人がいなくて
よかったと心の底から思うわ。
「うげっ!」
あまりの苦さにむせてしまった。
ズボンに少しコーヒー付いた。
慌てて缶を見ると
「うっ・・・なぜにブラック」
甘党な私の天敵であるブラックを
知らぬ間に買っていた自分。
「仕方ない。飲むしかないな」
深呼吸をして自分にカツを入れてから
一気に飲んで、缶を捨てて
スタジオに戻った。
きっとすごい顔してるな、私。