第1章 単純
「貴方、散々見られてるじゃないですか」
「ははっ。まあ、そうだけどね」
「何十万という目に」
「何十万・・・か。そうだね」
また遠くを見つめる櫻井さん。
こんなチビでボロボロな私の目より
コンサートとかで見かける可愛い女性の
何十万という目の方がドキドキするんじゃ。
「ずっと、何万何十万の目の中でしか
生きられないのかな?」
いきなり呟いた櫻井さん。
それは、ガラスの靴を手にできなかった
王子様のようで。
「誰か一人を愛したい、なんて。
俺らには、無理なことで、ダメなこと
なのかな・・・なんて、思うんだよねー」
床に落ちていたゴミを踏みながら
ポツリと呟いたその一言。
彼は、やっぱり向こう側なんだな。
「そんなこと、有り得ませんよ」
思っていたよりも自信満々に出た
その発言に、私自身が驚いた。
櫻井さんも、目を見開いて私を見る。
私は、なんだか照れくさくて
あえて櫻井さんを見ずに続けた。
「人は人を愛するようにできてます。
アイドルだからと言って、
心を閉ざす必要なんてないですよ。
櫻井さんだって・・・人間でしょ?」
生きたいように、生きなくちゃ
たった一度の人生なのに。
「沢山悩んでいいですよ。悩んで
恋をして、結婚して子供をつくって・・・
夢を持って実現していいんです」
話している自分が少し偉そうだったけど
今思えば、私も持った夢実現させて
おけばよかったわ。アハハ。