第1章 何が起きた
「…身元は不明か。所持品から生徒手帳が出て来たがそんな学校は存在しない。」
「偽造か?一見普通の女学生だが…」
「とりあえず、任務に行くから後は任せる。よろしくな。」
人の声が聞こえる。
聞き覚えのない男の人と女の人の声。
「…ん…ここは…?」
目を覚まして最初に目に入ったのは白い天井だった。
保健室の様な消毒液の臭いもする。
「目が覚めたか。1日程意識が戻らなかったんだ。何処か痛む所はないか?」
突然、声をかけられる。
声のした方を向くと、黒い服を着て髭を生やし剃り込みの入った短髪の男性と同じような黒い服を着た女性がいた。
「…特に痛い所は…えっと、あの、ここは…?」
体が起こせず目だけを動かして辺りを見る。
病院を思わせるようなその場所に似つかわしくない男女。
「起きたばかりで悪いが、聞きたい事がある。身体は動かせるか?」
「ごめんなさい、力が入らなくて起きれないです…」
「そうか、ベッドのリクライニングを起こす。体に違和感があったら言ってくれ。」
そう言って、男性はベッドの横にあったリモコンを取り操作する。
リクライニングで体が起こされる。
ずっと横になっていた体が動かされ、辺りを見るがそこは病院とも保健室とも言えない部屋だった。
時計は2時を指しているが外が見えない為午前なのか午後なのかも分からない。
カレンダーは6月だった。
「私は夜蛾と言う。君にはいくつか質問に答えてもらいたい。意識を失う前の事は覚えているか?」
意識を失う前何があったか、覚醒しきってない所為か思い出せない。
昨日の記憶を遡る。
学校に行って放課後は塾に行った筈。
その後…
「…塾の終わりに自宅に向かって歩いていたら、後ろに…」
はっきりと思い出した。
恐怖で身体が震えて涙が出る。
得体の知れない何かに追いかけられた事を言って良いのか。
どう言い表したら良いか分からず口を閉じる。
横にいた女性が背中を撫でてくれた。
「君は何かに追いかけられ、それから逃げた。間違いないか?」
声がうまく出せず頷く。
「そうか、怖い思いをしたな。もう大丈夫だ。あれはもう現れない。」
何かを知っている口ぶりに、はっとして顔を上げる。