第26章 説得
「歌う事って、こんなに楽しいことだったんですね」
「楽しいよ。1人も楽しいけど、誰かと一緒の方が楽しいよね」
レッスン後、千から連絡があったことを伝える。
「じゃあ、明日は早めに家に行ってみます」
「千が帰ったら連絡するね」
それからレッスン始めようと明日の計画を立てた。
ー
「千斗くん、久しぶりね。元気にしてたの?」
「はい。心配かけてすみません」
「ゆっくりしてってね」
七桜の部屋に持って行くお盆を預かり部屋に向かう。
「千!?いつ来たの?ごめん、持って来てもらって」
「いいよ。それに、七桜は今持てないでしょ?」
いきなり訪ねてきた千にビックリしたけど、さりげなく優しい。
こういうとこ意識してやってるわけじゃないんだろうな...
だからモテるのか?
「何?僕に見とれたの?」
「違うし」
「フフッ、怪我の調子はどう?」
「うん・・・まぁ、順調なんじゃないかな。この前ピアノ弾いてみたらまだ痛くて怒られたけど・・・」
「はぁ・・・無理はダメだよ。ちゃんと良くなるまで安静にしてないと」
(そう、それはわかってるんだけどね・・・焦りってあるのよね)
「ねぇ、七桜。・・・モモくんが飽きずに毎日訪ねてくるんだ。僕に音楽続けてほしいって・・・どうしたらいいかな?」
「どうしたらって・・・千はどうしたいの?」
「七桜はどう思ってる?僕は万がいなくなって歌を続ける自信も音楽を作る自信もなくなってしまった・・・七桜がいるから一緒に出来ればって思うよ。でも、何か足りない気がして・・・」
「うちと2人では続けられないってことだよね・・・」
「違う!そうじゃない。僕は七桜と一緒にいたいし、七桜の音楽も好きだ。七桜の音を生かせられるのは僕だけだと思ってる、それは変わってない。だから、僕から離れて行かないで・・・」
千、そうとう参ってるんだな...
「うちは離れて行かないよ。千にそう言ってもらえて嬉しいしね。大丈夫、今はちょっと自信なくしちゃってるだけだから」
「ありがとう。抱きしめてもいい?」
「なんでそうなる・・・」
ダメに決まってるじゃん!
それなのに、お願いなんてちょっと悲しそうに言うのはズルい...
「しょうがないな。今回だけだからね」