第26章 説得
作ってた頃が懐かしい、ライブしてた頃が懐かしいと思いながら弾いていた。
「イッタっ!」
夢中になって少し無理しちゃったみたい...
「はぁ、そりゃまだ治ってるわけないよね・・・」
「七桜さん・・・」
百がいたのに気付かなかった...
「大丈夫ですか?」
「やっぱりまだ無理みたい・・・こんなんじゃ弾けるわけないよね・・・」
ギブスも取れてないのに、ピアノなんて弾けるわけない...
「七桜さん、今、自分が泣いてるの気付いてますか?」
百は悲しい顔でそう言った。
そう言われて、顔を触ると初めて自分が泣いてることに気付いた...
「お願いだから、無理しないでください。怪我も治ってないし、バンさんがいなくなった傷も癒えてないんですよ・・・俺も頑張りますから、無理しないで・・・」
「百、ごめんね・・・」
「そこは、ありがとうって笑ってほしいです。ね?」
「百、ありがとう」
精一杯笑って見せたけど...
「俺、七桜さんには笑っててほしいです。七桜さんの笑顔好きだし、見てると温かくなって・・・って俺、何言ってんだろっ」
顔を真っ赤にして焦り出すから、私もつられて赤くなる。
「あ、ありがと。うちも百の笑顔好きだよ」
2人の周りが例えるなら、ピンク色の空気になっていた。
そして聞こえてきた咳払い...
そっちを見ると、お父さんと悟くんが立っていた。
「ご、ごめんなさい!何もしてません!」
「何もしてないなら謝る必要ないだろ」
お父さんは焦る百をからかうのが好きで、よくからかわれてる。
「七桜ちゃん、まだギブス取れてないうちは楽器弾くの禁止。治りも遅くなるし、ギブスで弾きやすい癖もつく。取れたら本格的にリハビリ始まるから、今無理したら後々辛くなるよ。わかった?」
「はい・・・」
怒られてシュンとしちゃう...
「百瀬の言う通りだ。怪我は治るし、傷痕も残らないように綺麗にできる。千斗も時間が立てば冷静に考えれるようになるよ。説得してるんだろ?」
「うん、百が頑張ってくれてる」
「なら、大丈夫だ。練習して待っててやろう」
「うん」
お父さんの言葉には妙に説得力があって落ち着く。
悟くんのレッスンは厳しい。
でも、音域は広くなったし、百もだいぶ声が出るようになっていた。