第22章 悲劇
千は毎日来るけど、ここ最近遅くまで残らず帰るようになった。
万が言うには、私の怪我を見るのが辛いみたいだって言ってたけど...
九条と会ってたりとかは考えすぎかな。
記憶とは状況が違うもんね。
そして次の日、万のお父さんがやって来た。
「こんにちは。七桜さんかな?初めまして、万里の父です」
「初めまして。私、万里くんと一緒に音楽してます。春沢 七桜と言います。わざわざ来て頂いてありがとうございます」
お父さんはお見舞いの花束と、万に好きだと聞いたケーキを買ってきてくれた。
「今回は、万里くんに怪我をさせてしまって申し訳ありませんでした」
完全に防ぎなかった悔しい思いと、申し訳ない思い出頭を下げる。
「頭、上げて。七桜さんの怪我の方が酷いんだから無理したらいけないよ。うちの万里を庇ってくれたそうだね?本当にありがとう。先生から聞いた話だと、あのまま万里だけに落ちてきていたらもっと酷い怪我をしていたとね・・・そのせいで大怪我させてしまって申し訳ない」
お父さんは頭を深く下げてお礼を言ってくる。
「そんなこと・・・怪我はさせてしまいましたから・・・」
お父さんは気にしなくていいと言ってくれたけど、知ってたのに怪我をさせてしまった自分が情けなかった...
「ごめんなさい・・・」
そう何度も謝る。
「七桜さんは1週間眠ったままだったと聞いた。万里は次の日には起きてたし、ここにも通ってた程だからたいした怪我ではないのさ。七桜さんは無理したらいけない。万里を救ってくれて、本当にありがとう」
「そんな・・・お父さんは、万里くんは音楽やってること、どう思ってますか?このまま続けてもいいと思ってますか?」
「本当はね、音楽なんて辞めて大学に行ってほしいと思っていたよ。安定した仕事に就いてほしいとずっと思っていた。でも、君たちと一緒に音楽してる息子は楽しそうで、自信に満ち溢れているように感じた。今更反対するつもりはないが、他の道に行きたいと言うならそっちを応援するよ」
「もう聞いているってことですか?万の考えは変わりませんか?」
「それは本人と話した方がいいだろう。千斗くんともちゃんと話したかったが、無理そうだからね。いつか一緒に連れて会いに来てくれないかい?」
「千には・・・」