第15章 雪ー陸奥守吉行ー (裏)
陸奥守「…。」
『陸奥守…おかえりなさい。』
陸奥守「…なにしちゅう?」
『ん?起きたら静かで…雪が積もってたから見ていただけよ?』
先程感じた儚さは消え、はっきりとした口調で陸奥守の腕に触れながら答えた。
陸奥守「…ひゃっこい。」
『ごめん…あの、寒いなら、離して?』
陸奥守「嫌じゃ。」
『うわっ!』
陸奥守は主を横抱きにすると、本丸へと進んだ。
縁側から上がり、主の草履をポイと投げて彼女の私室へ入る。
彼女が寝起きに入浴する事を知っている陸奥守は、そのまま湯の張っている浴室へ行くと主の服を脱がせて浴槽に沈めた。
『あつっ!』
陸奥守の行動に驚いていた主がやっと、自分の身に起きた事を理解した。
その間に陸奥守も衣類を脱ぎ捨てて、主の背後から包み込むようにして湯に浸かった。
『どうしたの?陸奥守…。』
いつもより口数の少ない陸奥守に不安を覚える。
気配もなんだか、違うし。
陸奥守「…風邪、ひくじゃろ?あんな薄着で…。」
『あ…心配してくれたんだ…。』
陸奥守「当たり前じゃ。
…何を考えちゅう?」
『ごめんなさい…年甲斐もなく、雪にはしゃいじゃって。』
陸奥守「それじゃない。」
『?』
陸奥守「空見上げて、何を考えちゅうがか?
寒さも自分で感じんと…涙、流して。」
『…涙?私、泣いてたの?』
陸奥守「おまん、自分で気づいてなかったんかい。」
『目に雪が入って…そうか、泣いてたのか…。』
自分の事なのに、どこか他人事のように答える主に不安を隠せなくなった陸奥守はさらにキツく抱きしめる。
陸奥守「何を考えちょったが?」
『…もう、会うことの出来ない人達を思い出して。』
大らかで大雑把に見える陸奥守だが、その実とても鋭く聡い。
だから、嘘をついても見抜かれてしまう。
そして、心を許すと嘘や隠し事を嫌う。
ならば素直に話すしかない。
陸奥守「…会いたいか?」
『…どうだろう。』
陸奥守「…帰りたいがか?」
声がぐっと低くなった。
『えっ…陸奥守…っ!!!』
陸奥守の質問の意図が読めず答えあぐねいていたら、肩口に歯を立てられた。
痛むはずなのに…身体の奥がジクジクとする。
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